2020/08/16

ノルマ・胃痛・口臭被害が拡大

 

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歩合で給料がいただける会社には当然ノルマがあります。

「頑張ったらその分与えるが、できなかったらその分奪います。」

とてもわかりやすい構図です。

僕はこのようなわかりやすさを気に入っていました。

もちろんノルマの存在は本当に苦しかったのですが、
それよりも自分の頑張りがカタチ(給料)として返ってくるのが好みでした。

もしかすると口習との戦いも同じだったかもしれません。

口習を改善できたのかどうか、つまりは
ニオイがいま消えているのかいないのかハッキリしない対策は大嫌いでした。

だからエチケットスプレーや、
消臭効果の実感できなかった
中学時代のサプリはすぐに辞めてしまい、
タバコ一本の対策へとシフトしていったのだと思います。

タバコは吸ったすぐ後から強烈な香りを身にまとえますし、
自分でもあきらかなニオイの変化と持続性を感じることができたからです。

 

この会社のノルマの仕組みは、
個人の売上に最低ラインが設定されていて、
そのラインを下回ると罰金というカタチで減給されます。

さらにこの罰金は繰越制になっています。

つまり前月にマイナスがあった場合は、
今月はそのマイナスの状態からスタートするのです。

マイナスがずっと累積していったら・・
そう考えると恐ろしいですよね。

結果を出せない営業マンはずーっとマイナスが溜まっていて、
下手したら給料がもらえなくなる可能性もあります。

つまりそうなることで、結果を出せない人間に
自発的に辞めてもらう仕組みになっていたのでしょう。

厳しい給料の仕組みかもしれませんですが、
まぁ給料よりも・・問題は店長なんです。

来店されたお客様から契約を取ることができず、
お客様をそのまま帰してしまうと、
デスクには内線の音が鳴り響きます。

トゥートゥー”

2階にいる店長からです。

「ちょっと上がって来て。」

これはつまり“いまからお前を追い込む”ということを意味しています。

「なんでお客さん帰ったん?」

関西弁というだけでその圧力は相当なものです。

その後10分ほど追い込みは続き、
こちらの返答次第ではお客様の家を
訪ねる約束をさせられることもありました。

ベテランになるとこのような追い込みはなくなっていきますが、
新人の、しかも営業未経験の20歳の僕のような社員は、
店長の人材育成心をくすぐる格好の標的となっていました。

この追い込みのおかげで、
スキル的にもメンタル的にも
相当鍛えられたと思います。

その点については本当に感謝していますが・・
このようなノルマや追い込みというプレッシャーから、
出勤中も休みの日も気が抜けない状態になってしまい、
僕は毎日ピリピリしていました。

リラックスできるタイミングがほとんどなくなってしまったのです。

例えば、連休で旅行に行っても契約のことが気になってしまいます。

海水浴に出かけて爽快な青空の下、砂浜でビールを飲んでいても、
ケータイ電話だけでは見える位置にスタンバイしておかなければ不安でした。

休みの日にバラエティ番組を観ていても、
どこか心の底から笑えない感じがありました。

(そうか・・明日もまた仕事か・・。)

早朝の変な時間に飛び起きることも何度もありました。

「あぁぁっっ!!寝坊したか!?」

時計を見ると朝4時です。

そこからは浅い眠りになってしまい、
疲労感を残したまま会社に出社することになります。

(ああぁぁぁぁーーーー、会社行きたくないなぁーーー!!!)

毎朝憂鬱な気持ちで目が覚めました。

このような生活を続けるうち、
タバコの本数はどんどん増えていきました。

朝イチに一服
出社後に一服
朝礼後に一服
お客さんと電話が終わると一服
ご飯を食べて一服

僕は当初、タバコを好んで
吸っていたわけではありませんでした。

しかしこのように、学生時代や飲食店で働いていた時より、
あきらかにタバコの本数は増えていました。

ニオイの対策というより、
ストレスを軽減させるために自ら好んで
タバコに火を点けるようになっていました

若さと自分を変えたいというエネルギーだけが
この生活を支えていました。

ただ水面下では確実に、僕の体はある変容を見せていました。

目に見えて症状が出ていたわけではありません。

見た目は健康的で(かなり痩せていましたが)、
不健康そうな様子は見当たりません。

しかし僕の体には少しずつ、そして確実に、ダメージが蓄積されていました。

 

営業マンになって4年目・・

この4年目が最も成績が良かった分、ピークに忙しかった時期です。

店に来客がなかったので、いつものように
バックヤードの椅子に座って職場の人と談笑していました。

すると・・相手が「ウッ!」と苦しそうに鼻をふさぎました。

そして向かい合った僕の方から体を反らし、
そっぽを向きながら左手をハンカチのように口に当て、
それまでが嘘のように無表情で会話をしだしたのです。

(んっ?なんだろ?気に障るようなこと言ったかな?気のせいかな・・。)

 

最初は気に留めませんでした。

 

・・・いま文章を書きながら、
なぜここで気に留めなかったのかを考えてみました。

そう、本来の僕ならば気に留めないわけがないのです。

むしろ他人に自分の口習を気づかれたことに不安になり、
そのあとは気になって会話どころではなくなっていたはずです。

それで当時の記憶を呼び戻し、
その理由を分析してみたところ・・
おそらくこの時期には、

口習を気にするセンサーのスイッチを無理やりオフにしていたのではないか、

と思うのです。

どういうことかというと、
まず働いていた不動産会社の営業は男性しかいませんでした。

つまり完全な男社会だったわけです。

自分よりひとまわり以上年上の人も多く、息の臭い先輩もいました。

加齢臭を漂わせている人もいました。

また個人の数字に追われている僕たちは、
仲間というより個人プレーヤーという感じでした。

仕事も個人レベルで全て進行していきます。

だから誰か一人をターゲットに陰口を言う
という雰囲気もありませんでした。

なんというか他の人のことなんてどうでもいい、
みんな他人に対してドライな関係でした。

つまり従業員に対しては、あまりデリケートな部分を
気にする意識がなくなっていたのだと思います。

お客様に対しては前述したように、
口習を気にする場面はたくさんあったはずです。

しかしいま振り返ってみると、入社して4、5ヶ月くらいからは
もうあまり気にしていなかったのではないかと思うんです。

きっと・・もう知るか!って感じで開き直っていたんじゃないだろうか

これは「そんなことを気にしていたら仕事にならない」
などという表面的な開き直りではなく、
お客様のことを気遣う気持ち、そのスイッチを
OFFにしていたのではないかと思うんです。

不動産の営業は契約を取ることが仕事です。

そのために広告費をバンバンかけて
お客様を呼び込んでいるわけです。

ただ来店したお客様にヒアリングをすると、
どう考えてもいま契約しない方がいいお客様もいました。

僕たちはそのようなお客様からも契約を取らなければいけませんでした。

契約を取らずに帰せば店長からの追い込みがあるからです。

だからお客様を気遣う気持ち、お客様に悪いなと思う気持ち、
それらを感じるセンサーのスイッチを途中で切ってしまったのだと思います。

そうしなければやってられなかったのかもしれません。

他人を思いやる気持ち、ひいては
「他人にどう思われるかを感じとるセンサー」OFF状態にすることで、
精神を正常に保っていたのだと思います。

その結果、
口習をどう思われるか、相手に気づかれたのではないか、
そのような感覚も封じ込めていたのではないか
と思うのです。

「知るか!」って感じで。

だからお客様に対しても、従業員に対しても、
会話をするなかで口習のことをあまり気にしていなかったのかもしれません。

相手にどう思われているか?相手に迷惑をかけているんじゃないのか?
このような本来の著者が持っているその嫌になるほど神経質で繊細な部分を、
仕事のために無理やり封じ込めていたのではないか・・いまの僕はそんなふうに思います。

 

・・・職場の人が「ウッ!」と手に口をあて顔を反らした仕草。最初は気に留めませんでした。

しかしこの日以降にも、この人と話をしていると
同じような会話の仕方をするのです。

ウッ!となったかと思うと左手をハンカチのように口に当て、
僕の方ではない真正面を見据えながら表情の乏しい顔で会話をするのです。

そしてある日・・その人はカバンから小さな瓶を取り出し、僕に無言で差し出しました。

“胃薬”でした。

僕は瓶を受け取り、その人の顔を見ながらしばらく意味を考えました。

「オレも使ってるから」

その人は優しく言葉をかけてくれました。

その表情を見れば、
センサーのスイッチを切っていた僕にもわかりました。

「君、口が臭いよ。」

その人も同じ症状で悩んだ経験がある、
というのが容易に読み取れました。

(もしかして・・オレの息はそこまでニオっているのか?)

それはこれまでの口習不安とは
あきらかに違うものでした。

これまで把握していた、他人が不快だと感じる範囲(被害規模)が
これまでより遥かに広くなっていたのです。

 

そう、僕の口習は悪化していたのです。

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