2020/08/03

あの子は二度と呼ばないで

 

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『侮辱』について・・

飲食店で働いていた時、
お会計の際にプラチナカードをよく見た。

ブラックカードも何度か見たことがある。

今は結婚している1人の関西芸人が、雑誌のモデルを連れて、
お忍びで個室に入っていくのを目撃したこともある。

そんな飲食店だった。

客単価は一人5,000円くらいのカジュアルな割烹料理屋だ。

このような「少しお高めの店」は、
必ずどの店も馴染みの客を抱えている。

馴染みの客は店にくると従業員全員に酒を振る舞う。

もちろんその客の会計で。

そして僕たち従業員は、
「いただきます!」
と言って全員がその人の席に集結する。

僕のような下っ端の従業員は、
誰よりも早くそれを一気飲みする。

「ええ飲みっぷりやな!よし、もう一杯いくか!」
そう言って会計に生ビール一杯が追加される事もあるからだ。

そしてこのような接待は店が終わった後も続く。

馴染み客は従業員何人かを連れて別の店へとはしごをする。

その店でも、
僕たち従業員は客の会計で飲み食いし、
あれやこれやと客を楽しませる。

ただ表面上は、その場に主従関係は存在していない。

客は自分の口から、
「俺の金だ。好きにしていいぞ」
なんてダサいセリフは言わない。

そういう偉そうな客は、
水商売の世界では真っ先に無視される。

夜の世界の女の子からだけでなく、
割烹料理屋の店主や皿洗いのバイトまで、
すべての人間から相手にされなくなる。

人を「真っ正面から」見下す人間というのは、
どこの世界でも相手にされなくなるものだと思う。

だからはしごをする際に、
馴染みの客もあからさまに偉そうな態度は取らない。

僕たち従業員も「接待してます」なんて野暮な事はしない。

あくまでお互い楽しんでいる、という空気があった。

が、そんなのは当然表面上だけであって、
こちらが本当に接待をしないと客は機嫌を損ねる。

18歳の僕にそんな空気などわかるはずも無い。

ただでさえ相手の気持ちが読み取れないのに、
そんな複雑な「暗黙の了解」なんてわかるはずが無いのだ。

だから馴染みの客からこう言われた。

「あの子は二度と呼ばないでくれ」

僕はその次の日から、
他の従業員たちに同行する事はなくなった。

馴染みの客たちは、
そういう遊び方をする事で自分の価値を確認することができたのだろう。

自分は他人よりも優れている、
自分はこんなにもすごい人間なんだ、
その事を確認するために従業員を連れて行くのだろう。

それは紛れもない事実だと思う。

ただ今思えば、彼らは遊び方をよく心得ていた。

遊びに行く場所やその店での立ち振る舞いなど、
まるで何十年もそんな事を経験してきたかのように知っていた。

しかし客の年齢を考えるとそんな筈はない。

おそらく自分の周りにも、
そういう遊びをする人間が大勢いたからだと思う。

もしくは、若い頃から他人の遊ぶ姿を
すぐ近くで見てきたのかもしれない。

自分が「接待する側」の立場で。

もしかすると馴染み客たちは、
別の場所では僕たち従業員のような役割を果たしていた人物なのかもしれない。

だから夜の遊び方をよく心得ていたのかもしれない。

だからこそ自分が優越感を感じられる場所を求めていたのかもしれない。

彼らも別の場所では劣等感を抱えていた存在なのかもしれない。

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