この街の不動産屋さん 最後

 

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〜続き〜

 「皆さんは、続けるのですか?」

 小西がそう問いかけると、店主たちは沈黙した。

 ユーチューバーたち若者五人は、「本気じゃない人はこの場から退出して下さい」とこちらに告げた。それは我々の取り組み姿勢を問いただすものであり、そしてきっと、彼らが今後も指導を続けていくうえでの最低条件なのであろう。

 結局残ったのは、レペゼン堀江の初期加盟店である、六人の店主たちだった。

 「皆さん。もし私に気を遣っているのであれば遠慮は無用です。皆さんの思う道を進んで下さい」

 高杉は念のためにそう付け加えた。

 もはやレペゼン堀江プロジェクトは実質的に崩壊を迎えている。四十あった加盟店の店主たちは、それぞれが思う道を、それぞれのやり方で突き進んでいる。

 一人で自店の情報を発信するよりも街単位で力を合わせてやった方がいい、という思いから始まったこのプロジェクトの趣旨は、ロックダウン=営業禁止の憂き目に遭い、その本来の意味を異にしてしまった。つまりは、この未曾有の事態に対しては、店主たちの「自己責任」で立ち向かうべきであるということだ。

 この先の未来が不透明である以上、どんな選択にも高杉には責任がもてない。

 「気を遣っているわけではありません。今後の自分たちの人生がどうなるのかという時に、そんなことを気にしている余裕はありませんから」

 米田の言葉に高杉は安心した。

 「ただ他に思い当たることもありませんし。何もせずにじっとしているわけにはいきませんので」

 「ユーチューブに動画を投稿し続けても、うまくいくという保証はないですよ」

 「それは分かっています」

 「ユーチューブと商売が結びつく保証もありませんよ」

 「そうですね」

 「それでもやりますか?」

 高杉はあえて詰問をした。

 「・・うまく言えませんが、私の直感が、続けるべきだと言っているんですよね」

 米田は人の意見に流されやすいところはあるが、感情の切り替えが早く、最終的には商売人としての嗅覚の鋭さを見せる人物であった。という印象を今あらためて感じる。

 「馬場さんも、いいんですか?」

 「私も、今はこれ以外に、やるべきことが見当たりませんので」

 「儲かるかどうか分かりませんよ?」

 「そうでしょうね」

 「貴重な時間をドブに捨てることになるかもしれませんよ?」

 「ええ」

 「本業としっかり向き合っていればよかったとあとで後悔するかもしれませんよ?」

 「はい」

 「それでも動画を撮り続けますか?」

 高杉はもはや自分の立場を忘れていた。高杉にとっては、レペゼン堀江の加盟店の脱退を阻止する必要があるのだ。

 「他の方はどうか知りませんが、私はこのプロジェクトに参加を決めた時から、最後まで運命を共にしようと決めていましたよ」

 馬場は気に入らないことがあるとすぐに激昂する感情的な一面はあったが、加盟店増加にもっとも貢献する姿勢を見せてくれるなど、誰よりも情に厚く、義理堅い人物であった。と感じたことを今思い出す。

 「加藤さんは、一番最初に、私の話に興味をもってくれました」

 「ええ。そうでしたね」

 「そして今日ここにいるメンバーを喫茶店に連れてきてくれました」

 「はい」

 「今思えば、どうしてそこまでしてくれたんですか?」

 「どうしてって、それは”ご縁”でしたから」

 高杉の不動産屋の初めての歓迎会に利用した店が、加藤のイタリア料理店であった。ナポリ風の窯焼きピザが絶品だと、最高の参謀である瀬下が探して見つけてきたのだった。元気娘の川上と、大らかだが芯の強い大沢は、あの日は随分と飲んでいた。そういえば三人ともここしばらくは顔を会わせていない。

 「冷静で頭の良い加藤さんが、単なるご縁だけで、先行き不透明なプロジェクトを支援するとはあまり思えないのですが」

 高杉はずっと胸にあった疑問をこの際ぶつけた。

 「そうですね・・ご縁を大事にしたかったというのは、もちろん嘘ではありません。ただ私が初めて店に伺って、レペゼン堀江のことを質問した時に、高杉さんの言った言葉が、ずっと私の頭に残っていたんです」

 「何ですか?」

 「新たな価値を『創造する』という言葉です」

 「ああ、堀江の街に新たな価値を創造しよう、という話ですよね。プロジェクトが軌道に乗ってから明かしましたが、あれが実は、堀江をユーチューバーの街にする、ということだったわけですが。今ではもう遠い話のように感じてしまいますね」

 半ば自虐気味にそう言った。自然と高杉の顔が下を向く。

 「たしかにプロジェクト自体は崩壊したかもしれませんが、あの言葉は、きっと正しかったと思います。だから私はレペゼン堀江プロジェクトに協力しようと思ったんです」

 高杉自身が価値を創造することの重要性に気がついたのは、世の中のあらゆる娯楽が「定額で利用し放題」へと変わっていく様を目の当たりにしていたからだった。

 「小西さん。私から一つ、質問をしてもいいですか?」

 このオンライン会議ではずっと静観を続けていた加藤が、初めて自分から、ユーチューバーにコンタクトを取った。「どうぞ」と小西が言う。

 「本来は自分たちで考えるべきことだと思いますが、とても重要な話なので教えて下さい。ユーチューバーの皆さんにとって「個性」とは何ですか?」

 少し間があって、五人の若者は声を揃えて言った。

 「『自分らしさ』です」

 そのことに驚く様子もなく、小西が続けた。

 「いかに自分らしさを発揮できるか。いかに自分らしさをうまく表現できるか。それがそのユーチューバーの個性となり、他の動画との差別化につながります」

 ユーチューバーから答えを受け取った加藤は、あらためて話を続けた。

 「おそらくこの個性の話と、価値を創造するという話は、同じことを言っている気がします」

 高杉の顔がふっと上がる。画面越しの加藤と目が合った。

 「店の営業ができないのならば、私たちは、私たちなりの価値を視聴者に提供すればいいのではないでしょうか? きっとそれができれば、必然的に商売の方にもつながってくると思います」

 どんよりとした雲の切れ間から光が差し込んだような、そんな感覚を覚える。いけるかもしれない。諦めなければ道は開けるかもしれない。

 「相手を喜ばせるという意味では、店の中も、ユーチューブも変わりません。相手にとっての価値を創造することができれば、きっと私たちは、これからも商売を続けていくことができるはずです」

 ざわざわと歓声が上がっていくような錯覚に包まれる。「やれるはずだ」「やってやろう」「きっとできる」それはインターネット回線を通さない、店主たちの心の繋がりが聞かせた、各々の魂の叫びだったのだろう。

 「私たち、店主たちの手で、ユーチューブに新たな価値を創造しましょう」

 

 

 企画者である高杉の不動産屋、加盟店である店主たち、そして会員であるインフルエンサーとユーチューバーが、全員参加で堀江の街をレペゼンする。そんな趣旨のもとに始まったこのレペゼン堀江プロジェクトは、わずか一年で最盛期を迎えると同時に、急転直下の様相で崩壊をたどっていった。それは高杉自身も想像だにしていない事態であったが、同時に奇妙な筋書きを生み出した。

 店主たち自身がユーチューバーになる、というストーリーである。

 それが果たして正しかったのかどうか、高杉は未だにその答えを得ずにいる。なぜなら彼らが決断したこの道は、未だに開拓のさなかにあり、日々新たな動画が投稿され続けているからである。

 彼らがその決断を下した二週間後、我が国政府は、都市部への実質的ロックダウン(都市封鎖)をさらに一ヶ月間延長することを決定した。それはすなわち、テイクアウトなどの一定の販売形態を除き、店舗での営業がさらに一ヶ月間禁止されたことを意味する。

 彼らがこの先、どのような結末をたどるのか?

 それはまだ、誰にも分からない。

 

 彼らは今日も、自分たちの作る動画に、自分たちだけの価値を創造し続けている・・

 

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この「この街の不動産屋さん」を叩き台として創作した小説を、電子書籍化することに決めました。

必ず、数ヶ月以内に、Kindle本で小説を出版させます。

ぜひ楽しみにしていて下さい。

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