2021/01/11

この街の不動産屋さん 12の続きの続き

 

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〜続き〜

 「皆さんのような、ユーチューバーの方を会員様に迎えてから、私たちは驚きの現象を次々と目の当たりにしてきました。大食い大会を開催したラーメン屋に行列が並んだり、ドッキリの小道具として使われた雑貨屋に注文が殺到したりと、それは我々の想像を遥かに超える出来事ばかりでした」

 高杉が話を切り出すと、五人のユーチューバーは顔を”議長席”へと向けた。それと向かい合うようにして六人の店主たちが横並びに立っている。それぞれが相手を不快にさせない程度に距離を空けて。

 「自分たちでSNSを活用していた時にはこうはなりませんでした。おそらく”何か”が足りなかったのだろうと思います。皆さんには見えていて、我々には見えていない”何か”が。だから皆さんの作った動画には人々が反応を示すのだと思います」

 空き地はしんと静まり返っている。ここ以外の工事も中断されているのかもしれない。

 「私たちは店を開けて営業をすることができません。それは致し方ないことですが、このまま何もしなければ間違いなく多くの店が潰れてしまいます。そこで我々は、この状況でも何かお客さんにサービスを提供できないかと頭を捻りましたが、お恥ずかしい話、どうにもアイディアが思いつきませんでした。そこで皆さんの知恵をお借りできないかと思い至ったわけです」

 「ちなみに、テイクアウト(持ち帰り販売)の営業だけではやはり難しいのでしょうか?」

 大食い系ユーチューバーの白田が確認するように聞いた。おそらくそれは、誰もが最初に感じる疑問であろう。

 「私たちの商売は料理を提供することですが、テイクアウトではその価値を十分に体験してもらうことができません。見た目や味の劣化、それに店の雰囲気や接客という付加価値が失われるからです。テイクアウトに四千円もお金を払いますか?」

 「うーん。その量にもよりますが、ちょっと高いなと思っちゃいますね」

 「それがうちの店の、一人あたりの客単価です。最初からそこまでの予算を想定して来店されてはいないかもしれません。お酒を飲んだり、相手と談笑したりと、その時間と空間を楽しむことで、結果的にお会計が一人四千円になるのだと思います。テイクアウトや宅配ではこうはいきません。また馬場さんのような美容院ではそれすらも叶いません」

 簡潔な加藤の説明が完全に通じているのかは不明だが、ひとまずユーチューバーたちは納得したらしい。そう、ピザが自慢のイタリア料理店が宅配ピザ屋に転身するのは、そこまで簡単な話ではないのだ。それをすると今度は「コスパ」の話になってくる。

 「相談していただけるのはありがたいのですが、商売のことは、僕たちにはよく分かりません。別にお店を宣伝するつもりで動画を撮っていたわけではないですし・・」

 今日来たユーチューバーたちに声をかけてくれた加地が、語尾を濁しながらやんわりと言った。そんなことを聞かれても困る、という話であろう。

 けれども聞く相手は間違っていない、と、高杉は確信をもっていた。

 「もちろん私たちがどんな物を売ればいいのか? どんなサービスを提供すればいいのか? という店の営業に関する直接的なことを助言いただくのは無理だと思っています。それを尋ねるのはお門違いだと。私たちが聞きたいのは『価値』についてです」

 「価値、ですか?」

 「ユーチューバーの皆さんにとって、自分たちが作る動画の『価値』とはなんですか?」

 高杉の投げかけたその質問に、五人のユーチューバーは困惑した様子を浮かべた。この人は何を小難しいことを聞いているのだ? というのが露骨に表情に出るところに若さを感じる。

 「そんなの・・考えたこともないですけど。とりあえず僕は、見る人に与えるインパクトを重視している感じです。白田さんは、どう?」

 「私も、似たような感じかな・・退屈な映像をだらだらと垂れ流しても、すぐに動画から離脱されちゃうからね。そういう意味ではシートンくんは私たちと真逆だよね。観察の動画って延々と静かじゃない? ハプニングとか何にも起きないし」

 「ボクは、ヒトに、イヤシをあたえたいだけです」

 「あっ、たしかに猫とか犬の動画って、延々と見ていられるよね。もう可愛くて可愛くてしょうがない」

 「価値とか聞かれても、正直いってよく分かりません。見た人が楽しいと思うかどうかじゃないですか?」

 加地はぶっきらぼうにそう言ってまとめた。そもそも高杉の質問自体を怪訝に思っている様子である。

 「これは見る人に対してどんな価値を与えるだろう? とか、そんなこと考えて動画を作ってる人っているのかな・・そんな一つ一つの動画に意味をもたせるようなことしてたら、私だったら”コイツ、重っ!”とか思っちゃうかも」

 「そうそう。逆にそんなメッセージ性に溢れてたら面倒くさいって感じるかも。何が言いたいんだよ、お前?  みたいな」

 「何こいつウゼー、って感じだよね。つーか何様だよ、お前? みたいな」

 「別にお前の話なんて聞きたくねえんだよ。さっさと面白いことやれよ、と思うわ」

 「そもそもさ、そういう動画って、見てると何か勘繰っちゃうよね。誰かに言わされてんの? 何か宣伝しようとしてんの? ユーチューバー側の意図が、何かしら透けて見えちゃう」

 「再生回数稼ぐためにわざと”炎上”を狙ったりとか、”衝撃!”みたいなテロップつけて釣ろうとしたりとか。そういうあからさまな動画って、見てる人も多分不快に思うよね。だからたとえ、その一本で再生回数を稼げたとしても、だいたいそういうユーチューバーってすぐに消えていく印象がある」

 「バラエティとかの”一発屋芸人”みたいな感じだよね。そういうのは長続きしないと思う。やってる方もつまんないし」

 たった一つの問いかけから白熱した掛け合いが生まれる。つまりは、彼らには彼らなりのこだわりや哲学がしっかりとあるということだ。高杉たちにその内容は理解できないが、自分の仕事のことを聞かれて口が滑らかになるのは、それについて己が探求しているという証である。

 たとえ商売であろうが、エンターテイメントであろうが、夢中で追いかけるものがあるという情熱だけは、彼らと共有できるのではなかろうか。

 「高杉さん、僕は駆け引きをするのは嫌いなので、はっきりと聞きますね。皆さんはユーチューブをやりたいんですか?」

 高杉は六人の店主を見た。誰もがはにかんだような表情を浮かべた。要するに、図星なのだ。

 「最初僕たちがここに来ようと思ったのは、僕たちのユーチューブのチャンネルが、皆さんのお力になれるかもしれないと思ったからです。つまり”この街を助けて下さい”と動画で直接呼びかけをして、皆さんのお店の商品を何かしら視聴者に買ってもらうという感じです」

 「偽善者だとか色々と突っ込まれるとは思いますが、私たちがそうしたいと思っているのだから一向に構いません。別に批判されることには慣れてますし。むしろそうやって直球でやった方が、見ている人も共感しやすいと思います」

 「変に隠さない方がいいよね。堂々と”助けて下さい”って言った方が、むしろ正直でいい」

 「ってかさ、隠したところで、見ている人にバレるじゃん。そういうのって」

 「嘘をついてる時って、やっぱり様子が変だからね」

 「偽善ですよ、そうですよ。って感じでやっちゃた方が逆に気持ちいい」

 「そう思って今日は来たんだけど、さっきのテイクアウトの話を聞くと、どうやらそういう形の協力は求めていなさそうですね。高杉さんもそういうつもりで僕たちを呼んだわけではなかったんでしょ?」

 青年に真っ直ぐに目を向けられた高杉は、目をそらさずにゆっくりと頷いた。ここで妙な嘘をつくのは逆効果だ。

 「私たちのような商売人に、ユーチューブの使い方を教えてもらえませんか?」

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