2021/01/10

この街の不動産屋さん 12の続き

 

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〜続き〜

 「本日はお集まりいただきありがとうございます。このような状況下にも関わらず、わざわざ足を運んでくださった皆さんに、心から感謝致します」

 主催者であり発案者でもある高杉が打ち合わせの口火を切った。その声は開発中止を余儀なくされた空き地によく響いた。閑散とした堀江の街が工事中の仮囲いの向こう側に広がっている。

 「会員(ユーチューバー)の皆さん、私たちの要望を受け入れて下さり、本当にありがとうございます」

 高杉の所作に続くようにして店主たち六人が頭を垂れた。

 「こちらこそ、声をかけていただいてありがとうございました。私たちも何か役に立てないかな、と思って今日は来ました」

 集まった五人を代表するように声を上げたのは、支那のラーメン屋を繁盛店に変えた、あの大食いタレント兼ユーチューバーの女性だった。名前を白田という。

 「白田さんが僕たちを先導してくれたんですよ。ここは私たちが動かなきゃダメだって」

 「ううん、加地くんが率先してみんなを集めてくれたから。やっぱり人をキャスティングするのがうまいよね」

 この加地という青年は、自ら発案した企画を他人に演じさせる形で動画を作っているユーチューバーだ。新たな物事にチェンジした演者が、ゼロの初心者から上達していく一連の様子に密着したり、実験的な企画に参加した演者のリアクションを撮ったりと、ドキュメント形式の動画がその主であるらしい。この手の動画によく見られる”ドッキリ演出”を得意としているのだそうだ。

 レペゼン堀江の加盟店である雑貨屋を使った「新居丸々コーディネート」という動画を生み出したのも彼だ。出演した演者の新居のインテリアを不在時に勝手に入れ替える、というドッキリ企画が再生回数を稼ぎ、動画の素材として使われた雑貨に一部の閲覧者たちから注目が集まった。当雑貨が非常に個性的であったことがその誘因らしい。店主である積木の個性的な感性が色濃く反映されたこの店の品揃えは、後々コアなファンを誕生させていったそうだ。

 「なんたって、シートンくんを連れてきてくれたんだから。マンションのエレベーターで何度か見かけたことはあったけど、まさかあの”観察系ユーチューバー・シートン”だったなんて、私は今日初めて知ったよ」

 そう言って白田が向けた顔の先には、うつむき加減に下を向いて立つ一人の外国人男性がいた。彼も他の四人と同じように十代から二十代前半に見える。

 「ナイショにしてくださいね。ボクはカオ、しられたくない」

 「動画では一切顔出ししてないもんね。これで知れ渡っちゃうかもだけど、いいの?」

 「そんなコダワリよりもダイジなことがあります」

 そう言ってはにかむような表情を浮かべると、今度は背中を丸めてしっかりとうつむいた。

 このいかにも大人しそうな外国人青年は、飼っている動物や植物の生態を観察する動画を作っているらしい。動画にはテロップを入れ自分は一切登場させないのだそうだ。

 ユーチューバーの中にも、エンタメ精神に溢れる者や、裏方に近い形で出演する者、そして自身の存在をさらさない者など、様々なタイプが存在しているのだと高杉たちは学んだ。

 このシートン青年こそが、何を隠そう「観葉植物をゼロから育ててみよう」の動画の生みの親である。植物の種が売れるという奇妙な現象を巻き起こし、花屋の假屋崎を困惑させた張本人である。

 しかしその後、假屋崎自身も、植物の育て方を客に教えたり、観葉植物のインテリアデザイン、企業から依頼されたフラワーアレンジメントの受注など、花屋としての新たな可能性をどんどん広げていった。その最初のきっかけとなったのが、彼が作った一本の動画だったのだ。

 「なんだか泣けてきますね。本当に嬉しい限りですよ」

 目頭を熱くさせているのは、例によって馬場だ。

 「正直に言ってしまうと、お騒がせな人たちばかりだという先入観がありました。だけど、今日でそれが、自分の偏見だったと気づきました。この場を借りてお詫びします」

 そうやって馬場に続いたのも、例によって米田だった。しかし明らかにひとまわり以上年下の若者たちに対して、自身の非を素直に認め、面と向かって詫びられるところは、経営者としてさすがだなと高杉は思った。

 「たしかにユーチューバーにも色んな人がいます。ただ、今日ここに集まったのは、純粋に力になりたいと思っているメンバーたちです。とは言っても僕たちに何ができるのか、まだちょっと自信がありませんが」

 加地がそう言うと他の四人も小さく頷いた。

 おそらく彼らもそれなりの知名度をもった人物たちのはずだが、横柄に振る舞う者は誰一人としていない。それはこの出会いだからなのではなく、彼ら自身の人間性に由来するものだろうと高杉たちは感じていた。相手の人間性に敏感になるのは、ある意味では経営者として自然に身につく”素養”だといえる。幾多の従業員との出会いと別れを経験するこの立場に就けば、否が応でも人間の本性に何度も出くわす。高杉たちのような小規模店舗の責任者であれば尚のことだ。

 「相談に乗っていただけるだけで十分です。どのみちこれは、誰も経験したことのない未曾有の事態ですから、何ができるかなど分からなくて当然です。我々がお客様である皆さんにそれを相談することがまず筋違いですし。ただお恥ずかしい限りですが、今はそんな体裁を繕っている場合ではありませんので、こうしてお呼び立てした次第です」

 こうして、両者の思いを十分に理解しあったところで、早速高杉は本題に入った。

〜続く〜

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