2021/01/09

この街の不動産屋さん 12

 

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 先日の定期会議からわずか二日後。打ち合わせには五人のユーチューバーの顔が並んでいた。

 異例といってもいい迅速さである。この時期の有識者会議でもこうはならないだろう。高杉たちにとって、彼らは会員費を支払ってくれる歴とした客であり、協力してもらう義理は本来ない。彼らが会員指定の堀江のタワーマンションに住んでいたこと、そしてもちろん、この切迫した状況も手伝っているのは間違いないだろう。

 当打ち合わせは、オンライン上ではなく、あえて堀江にある開発途中の空き地にて行われた。その理由は後述するが、昨今の状況を鑑みた結果、彼ら五人と高杉を含めた少数の有志たちという最低限の人数によって開催された。少数の有志とはもちろん、プロジェクト始動時のあの店主たち六名である。

 工事が一時中止となったこの空き地は、タワーマンション用に広々とした敷地が確保されてあった。周囲を工事用の仮囲いに覆われ、さあ今から基礎工事だ、というのが見て取れる状況になっていた。つまりは更地になった大地に掘削用のブルドーザーなどの重機が数台スタンバイしており、解体された以前の建物の廃材があちこちに積み上がっている。まさにこれから穴を掘ろうという段階だ。

 白い壁に囲まれた空間は、華やかな商業地域の街並みとは一線を画し、なんだか無機質で寂しく映る。背の高い壁が目隠しとなって景観を遮断するため、まるで周囲と隔離されたような錯覚を起こし、それがまた寂寥感を感じさせる。まるで荒廃した大地に立っているような感覚になる。

 見上げれば蒼々とした空が広がり、心地良い風が吹いている。晴天の下に打ち合わせをするその姿は、さながら戦後に実施された青空教室のようであった。

 高杉たちは打ち合わせの”臨場感”を重視した。とくにユーチューバーと店主たちが対面で話をするのはこれが初めてである。店で客として相対するのとはまったく意味が異なる。

 幸いなことに、この空き地の権利者が、レペゼン堀江の会員特典であるタワーマンションの家主と同一であった。高杉たちが相談を持ちかけたところ、「ご自由に使って下さい」と一つ返事で承諾をくれたのだった。その寛大さに思わず高杉たちは心を打たれた。

 誰もが自分のできることを果たそうとしている。そのことを高杉はひしひしと感じていた。

~続く~

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