2021/01/13

この街の不動産屋さん 13の続き

 

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〜続き〜

 「そういうことではないと思うんですよね」

 店主たち六人が動画を披露し終えると、口火を切ったように一人の青年が喋り出した。画面の左隅に「小西」という名前が表示されている。

 「六人とも自己満足が過ぎます」

 その言葉を聞いた店主たちの表情は明らかに曇った。高杉のパソコンに表示されている参加者たちの顔は少しボヤけて映っている。パソコンやスマートフォンの性能、あるいは接続しているインターネット環境に合わせ、自動的に画質が落とされる仕組みになっているからだ。それでも、画面越しの六人が思わず眉根を寄せたのを、高杉は見逃さなかった。

 「小西くん、ちょっと、そんな言い方・・」

 「じゃあ白田さんはどう思いましたか?」

 「えっ? いや、まあ・・」

 「ここで上っ面な助言をしたところで、皆さんの為にはならないと思います」

 そう断言した小西という青年は、ファッションや美容に関する動画を作っているユーチューバーだ。自宅からの参加ということで、誰もがわりとラフな格好でこの打ち合わせに臨んでいる中、彼一人だけがびっしりとシャツを決め込んでいる。しかも首元には蝶ネクタイまであしらうという徹底ぶりだ。

 「加地くんはどう思いました?」

 「オレ? うーん、もう少し見る側の視点に立った方が、とは思いますね。だけど最初からそんなにうまくできる人はいないし、それは仕方がな・・」

 「この人たちは明日食う飯に困っているんですよ。なるだけ、いや、すぐにでも、結果を出さなければいけない。流暢なことは言ってられません」

 「まあ、それは確かにそうですね」

 「厳しい言い方だとは思いますが、僕はハッキリと言っていきます。そして、今後も、そうしていくつもりです」

 その気取った見た目とは裏腹に、この小西という青年は意外と熱い男らしい。こういうタイプの若者は起業家から関心を集めやすい傾向がある。とくに彼は放っておかないだろう。

 「ちょっといいですか?」

 馬場だ。

 「君たちは五人ともある程度の知名度をもっていて、チャンネル登録者数も十万人を超えるやり手のユーチューバーたち、そのことを疑うつもりもないし、実際に凄いことなのだろうと思う。けれど、いくら自分たちが結果を出しているといっても、私たちのような商売人がやる動画とは、意味合いが少し違うんじゃないですか? 自分たちのやり方や考え方をそのままあてはめて正解だ、不正解だ、と断定するのはちょっと傲慢な感じがするのですが」

 「そうそう、馬場さんの言う通りですよ。さっき自己満足と言われましたけど、そもそもユーチューブ自体が自己満足のSNSじゃないんですか? テロップや編集で見る人に分かりやすくはしますが、自分のやりたいことをひたすら発信している印象があります。それを見た人がたまたま面白いと思ってくれただけの話で」

 当然の如く米田も馬場に追従した。ただ、言い放った内容は、いま店主たち全員が思っていることであろう。加藤らも青年たちの態度に憮然としている様子だ。

 「たしかに僕たちは商売人ではありません。商売を前提とした動画を作っているわけでもありません。それに厳密に言えば、ユーチューブにも色んな種類の動画があるので、”こうすれば結果が出る”なんて一概に言うのは間違っていると思います。それこそ傲慢だろうと」

 小西は店主たちを正視するように話した。自分を写しているカメラに目線を向けながら喋っているのだろう。

 「ただ何が正しいのかは分かりませんが、何が間違っているのかは分かります。それを感じたからこそ、きっと僕たちは、五人とも意見を同じにしたのだと思います」

 小西以外の若者全員が頷いた。通信速度の遅延のせいか、全員が深々と首を縦に振ったように見えた。

 「皆さんは、どんなことを考えてこの動画を撮りましたか?」

〜続く〜

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