2021/01/12

この街の不動産屋さん 13

 

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 三日後、高杉たちはオンライン会議を開いていた。参加者たちは各々の自宅から打ち合わせに参加している。

 ズーム(Zoom)という名前は、去年あたりから突如として広く知られるようになったが、「まず個人のアカウントを作って・・」というような、ウェブツールによくある煩らしさが省かれているのが大きな特徴だ。各種通販サイトに代表されるように、インターネットを通じて何かを利用する際には、だいたいがメールアドレスとパスワードの設定を要求される。それらは管理する羽目になる利用者たちを悩ませ、忌避する理由となっていた。ズームでは、知人からの招待に従っていけば、容易にオンライン会議に参加することができる。

 「お時間をとっていただきありがとうございます。今日はよろしくお願いします」

 進行役の高杉の挨拶によって打ち合わせは開始された。その言葉は主に、五人のユーチューバーに対してかけられた言葉であった。

 「早速ですが、動画を見せてもらえますか?」

 大食いタレント兼ユーチューバーの白田が、六人の店主たちに向かって言った。彼女はこういう時に率先して行動するタイプらしい。それが「助けたい」という思いやりからくるものだから、店主たちは誰一人として不快な顔は浮かべなかった。

 「私からいかせてもらいますね」

 一番手に名乗りを挙げたのは米田だった。

 他の店主たちにとっては心強い限りであろう。半ばオーディションのようなこの打ち合わせにおいて、最初に自身の動画を公開するのは普通、誰もが躊躇する。

 「では私のスマホを画面共有しますね」

 そうして全員が無言で見守る中、数秒すると、米田のスマートフォンの画面が、他の者たちの画面に表示された。米田がスマートフォンを操作し、写真のフォルダから動画を再生する様子が見て取れる。

 この一連の動作は、前日に高杉たちだけで予行演習をしていた。ここでもたつかせて相手を待たせるのは失礼にあたる。取引相手にプレゼンテーションをしているわけではないのだが、相手が善意で自分たちに協力をしてくれているため、こちらもある程度準備をしておくのは最低限の礼儀だと高杉は思っていた。

 なに分、店主たちはこの手の操作を普段行うことはない。ぶっつけで当日を迎えれば助言もままならなくなるのは容易に想像ができた。こういうところを調整するのが自身の役目だろうと高杉は思った。

 「テロップなども何もつけていませんが・・」

 言い訳のように米田がそう言ったのは、これから再生する動画に自信がないからだろう。

 「大丈夫ですよ。この前言ったように、テロップや編集は、とりあえずまだ大丈夫です」

 米田を安心させるように白田が声をかけた。実際、彼らはそのようにこちらに宿題を出したので、米田の言葉は別に言い訳ではないのだ。

 ユーチューバーたちは、六人の店主に「とりあえず自分が思うような動画を撮ってみて下さい」と言った。スマートフォンのビデオ録画機能を利用して一本の動画を撮れ、と。そしてそこにはテロップも編集も不要である、と。

 「では再生しますね・・」

 そうして米田が動画を再生させると、画面を共有している他の者たちもその映像を確認することができた。こうするのがもっとも手っ取り早い、とユーチューバー側から高杉に指示があったのだった。おそらく彼らはこのようなことを何度か経験しているのだろう。

 米田が見せたのは五分ほどの動画だった。終始ぎごちない喋りを続ける米田の姿が映っていた。

 それから全員が順繰りに動画を見せ終えたところで、一人のユーチューバーが口を開いた。

 「こういうことではないと思うんですよね」

〜続く〜

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