この街の不動産屋さん 14

 

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 今日もまた、高杉たちは”オンライン上の会議室”にいる。前回の打ち合わせから再び三日後だ。

 「私たちにユーチューブを教えて下さい」と頼んでからはや一週間。矢継ぎ早に打ち合わせが行われていた。

 高杉たちはこの若者五人に心から感謝の念を覚えていた。彼らは、こちらの身勝手なお願いを煩わしく思うこともなく、こうして頻繁に打ち合わせの場を設けてくれている。それは打ち合わせというよりも、もはやユーチューバーたちによる公開指導の場となっており、高杉たちにとっては有り難い説法を受けているようであった。

 スパルタ指導の小西を筆頭に、彼らは容赦なく店主たちにダメ出しをした。それは店主たちを危機的状況から速やかに救い出したいという思いやりからくるものであり、甘んじて受け入れて然るべきものであった。

 「それでは宿題の答えを見せて下さい」

 今日も公開指導を先導していくのは小西だ。また店主たちにあの辛口の言が浴びせられると思うと、高杉の身体にも緊張が走った。

 「・・誰からでも構いませんよ。どのみち全員の動画を見た後にアドバイスをしますので」

 誰も名乗りを挙げない。前回一番手に志願した米田も、うつむいて他の店主が名乗り出るのを待っている。

 「・・すいません、僕たちも時間が限られているので。誰かしら早く見せて下さい」

 前回の先制パンチがあまりに強烈すぎたのか、六人の店主たちは気後れしている様子だ。あれだけズバズバと言われれば無理もないのかもしれないが。

 するとこの状況を見かねた加地が、穏やかな口調で場を仲介した。

 「じゃあまた米田さんからお願いしてもいいですか? まあ、最初からうまくできる人なんていませんから、この段階の動画の出来なんて気にしないでいいと思います。皆さんが一体、どんな動画を作ってきたのか、僕は楽しみだな」

 「私も、楽しみ。最初の頃に作った動画なんて、今思えば酷かったもんね。でもやっぱ、あれがあったからこそ、今があるんだと思うし」

 「何事もまずはやってみないと分からないからね」

 「そうだよね。とりあえず作ってみて、そこから修正していけばいいし」

 白田と加地の会話は、店主たちの自尊心を多分に回復させた。紅一点、白田という女性の存在は、この場には大変有り難かった。男同士の自尊心の衝突が起こりそうな場面において、度々、両者の潤滑油のような役割を彼女は果たしてくれている。

 「それではご指名いただきましたので、私から披露させていただきます」

 そう言うと米田は、自身のスマートフォンの画面を他者に共有した。写真のフォルダから撮影した動画が再生され、オンライン会議の参加者たちに確認された。

 「では、次は私が」

 そうして馬場から順繰りに撮影した動画が披露されていった。どれも十分弱ほどの尺の動画であった。

 「ふぅ、なるほど・・」

 すべてを確認し終えた小西が、意味ありげにそう呟いた。溜め息混じりに吐いたその口調から、明らかに落胆している様子が伝わってくる。

 「皆さん。この動画は、何度も撮り直しをしていますね?」

 店主たち六人が一様に首を縦に振った。

 「どうして撮り直したんですか?」

 例の詰問するような口調が始まった。必然的に店主たちの顔が強張る。

 「いやあ、見やすい動画を作ろうと思いまして・・」

 自信がないのか、反抗する意思を示しているのか、米田の語尾はどこまでも濁っている。

 「見る人にとって、見やすくて、聞きやすい動画にしようと思ったからです」

 代わりに馬場がはっきりとそう主張した。店主たちが一様に同意を示す。

 「喋りがキレイすぎて全然面白くないです。何度も撮り直した感、が丸出しで。そんな上手に喋らなくてもいいんですよ」

 たとえオンライン上であっても、ピンと張り詰めたこの場の空気を、誰しもが容易に感じ取ることができた。

 「皆さんはまだユーチューブを始めたばかりの初心者なのだから、途中で話が詰まってしまったり、たどたどしくなってしまうのが当然なんです。笑顔が引きつっていたりとか。だけど、それでいいんです。その方が一生懸命やっている様子が視聴者にも伝わるんですよ。最初から完成されたものを見ても面白くもなんともない」

 そわそわしている若者四人の様子が画面越しに見て取れる。

 「こうした方がいい、とか、見る人にとっての価値を一方的に決めつけてはダメです」

 店主たちはついに黙ってしまった。自分たちなりの考えを述べたうえでそれを否定されたのだから、たしかにそれ以上言うことはもう何もない。

 「まあまあ。小西くん、ちょっと抑えて」

 ここで入ってきたのはやはり加地だった。

 「いやだけどさ、時間が・・」

 「いち早くなんとかしたい、っていう気持ちは僕も同じだけど、あまり焦り過ぎるのもよくないと思う。それに、皆さんも相当頑張ってくれてますし。これだけの動画を撮るのは大変だったんじゃないですか? 何時間も、もしくは何日も練習を重ねたのではないかと思います。皆さんの苦労をお察しします」

 店主たちは少しはにかんだ様子を浮かべた。

 「こんな風に一人で延々と喋ることなんてないもんね。しかもカメラの前でさ」

 「録画した動画を自分で見返すと、めちゃくちゃ落ち込むよね。自分、下手だなぁって」

 「そうそう。もう全部修正したいって思っちゃう。もう一回やり直したいなぁって」

 「そういう恥ずかしい部分がネットに載っちゃうわけだから」

 「誰に見られるか分かんないんだもん。そりゃあ、格好いい動画にしたいな、って思うよね」

 今更ながら、彼らはなかなかにバランスの良いチームだと高杉は思った。情熱的な小西、正義感の強い白田、バランス感覚に長けた加地。残り二人は口数がほとんどないが、それが前に出る三人とのコントラストになってちょうど良い。

 「一応、私たちなりに考えて動画を作ったんですが、やはり素人考えではダメですね」

 米田が落胆したような声で言った。

 「見る人のことを考えたつもりなんだけど・・ユーチューブってのは、奥が深いんですね」

 馬場の口調も同様だ。ただ、含んだように聞こえるのは気のせいだろうか。

 「いえいえ、皆さんのやっていることが決して間違っているというわけではありません。最初は誰しもが同じことをします。ただ、何度も撮り直す癖がついてしまうと、一本の動画を作るのに時間がかかって仕方なくなります。たしかに動画自体のクオリティも大切ですが、それよりも毎日動画を配信し続けることの方が重要です。視聴者の目に留まり続けることが、応援してくれるファンの獲得に繋がっていきます。そういう意味でも、一本の動画にあまりこだわり過ぎない方がいいのかもしれません」

 「小西くんも、今後の皆さんのことを考えて、最初の段階で修正しておこうとしたのだと思います。彼の言ったこと自体は、僕も間違っていないと思います」

 白田と加地の絶妙なフォローによって、店主たちもひとまず納得を得たようだった。

〜続く〜

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