2021/01/18

この街の不動産屋さん 15の続き

 

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〜続き〜

 店主たち総勢九名の動画が披露されると、オンライン会議上にしばし沈黙が流れた。それはまさに嵐の前の静けさのようであった。

 アパレルショップ店主の奈井木、花屋店主の仮屋崎、雑貨屋店主の積木の三人が、このような形でユーチューバーたちと対面するするのは初めてだった。以前に客と店員という関係で対面はしているが、今回はほぼ先生と生徒という形の対面であり、そこには見えない緊張感が漂っていた。

 先生が、途中から加わった転校生三人に対して、その指導の距離感を図りかねているのだろうか。

 「まずは個性を出して下さい。僕たちは最初に、そう言いました」

 唐突に熱血教師の小西が喋りだした。やはりいつもと違って穏やかな口調である。

 「けれど九人とも個性を履き違えていますね。これは個性とは言いません」

 すべてが単なる思い違いであったことを高杉たちは即座に思い知った。彼はいつもと変わらない、あのスパルタ指導の小西である。転校生とて容赦はなかった。

 「個性を出すとは、人と違う突飛なことをすることではありません。誰もやっていないことをするのが個性だと思いがちですが、誰も作っていないような動画は、文字通り誰も見ません。面白くないですから。誰も着ていない服はダサいのだから誰にも着られない、それと同じ理屈です」

 ファッションに関する動画を作っているユーチューバーらしい言葉だ。奇抜なものは、得てして多数の人々から支持を得るのが難しい。それを個性と捉えて動画を作るのは間違っているということであろう。

 では、彼らのいう個性とは一体、何を指しているのだろうか? そう思うのとほぼ同時に、高杉のパソコンのスピーカーから一人の声が響いた。

 「すいません、一つよろしいでしょうか?」

 洋服の話が出たからだろうか。ここぞとばかりに奈井木が開口した。

 「これまで私たち三人は、このオンライン会議の様子を録画で拝見していました。こちらからの無理なお願いにも関わらず、熱心にご指導いただいている皆さんには、本当に感謝の気持ちしかありません」

 その言葉がお愛想に聞こえたのは高杉だけだろうか。

 「ですが、ユーチューバーの皆さんは、少し勘違いされているようです。私たちは別に、ユーチューバーになりたいわけじゃないんですよ」

 相手方は黙って話を聞いている。

 「私たちは商売人です。それぞれが店をもっています。本業の商売の売上につながるように、どうにかユーチューブを利用できないかと思っているだけなんです。いわば、儲けるためにユーチューブを使いたいんですよ」

 かなり率直な言い方ではあるが、それが店主たちの本音ではある。
 
 「ユーチューバーとして有名になりたいとか、ユーチューバーとして食っていきたいなんて、さらさら思っていません。だから個性だとか、撮り直しをするなだとか、そういう考え方や取り組み方の話は別に結構ですので、どういう動画が再生回数を稼げるのかを端的に教えてもらえませんか? とりあえずコツさえ教えてもらえれば、あとは自分たちで創意工夫していきますので」

 捲し立てるように言ったそのセリフは、あらかじめ用意されていたものだったのだろう。

 奈井木たち三人はユーチューブによって多大なる恩恵を受けた。そのことからユーチューブがもつ可能性に誰よりも深く気がついている。だからこそ、この危機的状況下、彼らはこの道に賭けているのだろう。その気持ちが焦燥となって表れてしまうのも致し方ない気はする。

 一連の話を黙って聞いていた小西が、静かに口を開いた。

 「一番最初にも言いましたが、僕たちは商売のことは分かりませんので、ユーチューブを商売に利用する方法を助言することはできません」

 たしかにあの空き地で最初に対面した時、彼らにはそう言われていた。

 「それにどんな動画が再生回数を稼ぐのかと聞かれても、それはその時々によって違います。流行り廃りがありますし。あと再生回数を稼げるからといって、無理やりその手の動画を作るのは、皆さんの商売にとってはたぶんマイナスになると思いますし・・」

 小西が口ごもった。彼らなりに、店主たちのことを考えてくれていたのが伝わってくる。

 するとその続きを紅一点である白田が引き取った。

 「偉そうに聞こえたらすいません。「利用する」なんて考え方でユーチューブをやっていたら、絶対に失敗しますよ」

 これまでにない強い口調だった。そこに加地が続いた。

 「ユーチューブは遊び場です。楽しむことを目的として人が集まっています。そんなところに自分だけ得したいという気持ちで動画を投稿していたって、誰も見てくれませんし、誰も応援してくれませんよ」

 いつも冷静に場を仲介してくれている加地が、珍しく感情を剥き出しにしている。

 「ユーチューブを低俗な娯楽だとバカにする人はたくさんいますが、人を楽しませるというのはそんなに簡単なことではありません。何をすれば見ている人に楽しんでもらえるのか、どうすれば飽きられずに応援し続けてもらえるのか、日々、脳みそが溶けるほど考え続けています。とても生半可な気持ちでは続けられません」

 頬を紅潮させ、鼻を大きく広げた白田の顔は、さながら鬼神のように見えた。大食いタレントがテレビ番組の大会にて、自身の限界を超えてさらに食べ進める時に見せるあの表情である。

 「皆さんがユーチューブを利用して、この窮地をどうにか凌ごうと必死になっているのは分かります。だけど、順番が違うんですよ」

 その加地の言葉を聞いた店主たちがぴくりと反応した。

 「まずは見ている人を楽しませることが大事です。自分の中の目的だとか、自分の中の野望だとか、そういうのは、人を楽しませた後についてくるものだと思います」

 高杉たちは頭を殴られたような思いがした。それこそが、彼らには見えていて、自分たちには見えていなかったものだと後で気がついた。

 「自分が得をしたいならば、まずは、相手に与えなければいけません」

〜続く〜

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