2020/12/23

この街の不動産屋さん 4

 

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 「あらためて、これからよろしくお願いします」

 社長の高杉がテーブルの中央にグラスを掲げた。三方向から手が出てきてグラスが重なる。かちんという音と共によろしくお願いしますと各人が応えた。黄金色の液体に乗った泡が豊かに弾む。

 「メニューは、と・・コースじゃなくて個別に注文する形ですよね?」

 川上恵子が端に立てかけてあった食事のメニューをテーブル中央に広げた。そうしてからようやくグラスに口をつけ、遠巻きにそれを眺めている。

 「とりあえず前菜をいくつか頼みますか」

 瀬下孝史が椅子から前傾姿勢になって言った。メニューを上から人指し指でなぞっている。

 「ここは窯焼きのピザが美味しいらしいですね。二人はどれがいいですか?」

 瀬下が口コミサイトで見たこの店の触れ込みを伝えると、向かいに座った二人は顔を見合わせて微笑み、代弁するように大沢慎一郎が言った。

 「川上さんはマルゲリータが食べたいんですよね」

 遠慮がちにこくりと頷く川上。

 「ああそういえば、この店の看板メニューらしいですよ。川上さんはマルゲリータが好きなんですか?」

 瀬下の問いかけを引き取った大沢は、穏やかな口調で補足した。

 「まあ予習はばっちり、みたいな・・実は川上さん、今日の食事会をとても楽しみにしていたんです。昼間からずっと隣の席でマルゲリータ、マルゲリータってぶつぶつ言っていましたから」

 「えっ、そんなに連呼していました? 恥ずかしい」

 「さっきホームページで確認してみたらすごく美味しそうで。だから僕も食べてみたいです」

 「よし、じゃあ決まりですね。あとパスタとアラカルトも何品か注文しましょう」

 三人の会話を黙って聞いていた高杉は、嬉しさで緩んだ口元をグラスで塞いだ。

 真っ先に動き出す川上。他人の気持ちを汲むことのできる大沢。何を言わずとも場を取り仕切ってくれる瀬下。三者三様の異なる人間性がテーブルを囲んでいる。

 この三人とならこれからやってくるであろうどんな荒波をも超えていけそうな気がする、そんな思いが高杉の胸に浮かんだ。

〜続く〜

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