2020/08/03

ぶつけようのない怒り

 

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『嫉妬』について・・

小さい頃に幼馴染とよく遊んだ。

僕の家から、大きな広場を挟んだ向かい側に彼の家があり、
その広場でいつもキャッチボールやサッカーをしていた。

この丸い広場は、半分が道路、半分が田んぼに隣接していた。

そして道路側にコンクリートの壁が設けられていたので、
一人の時には、壁に当てていればキャッチボールやサッカーができた。

当時はまだ携帯電話もパソコンも無い。

壁にボールが当たる音、これが合図だった。

僕たちはとくに約束することもなく、
壁にボールが当てる音が聞こえたら広場に出て行く、
という感じでいつも集合していた。

彼とはずっと一緒にいた。

僕は幼稚園、彼は保育園と、
別の場所に通っていたにも関わらず、
いつも二人で遊んでいた。

家は近かったけど、別に親同士の仲がよかったわけでもないし、
向こうは近所のお寺さんの子供で、僕はごく普通の家庭の子供。

家の大きさも、お小遣いの額も全然違う。

だからきっと、お互いに気が合ったのだろう。

同じ小学校に通うようになってからも、
変わらずにずっと仲良しだった。

分岐点は「少年野球」だったのだと思う。

同級生の男の子の誰もが少年野球に入っていたし、
当然彼も入っていた。

だけど僕は入れなかった。

両親が共働きだったからだ。

少年野球は親の送り迎えが加入の必須条件になる。

夜勤も多く、シフト制で働いたいた母には、
送り迎えをすることは難しかったらしい。

まさか親に断られると思っていなかった僕は、
子供心に何かを感じたような気がする。

小学生にとって、少年野球に入っているかいないかは、
通っている幼稚園や保育園の話とは大違いだ。

彼は少年野球のメンバーと頻繁に遊ぶようになり、
話題が合わない僕は、壁を相手に一人でサッカーをする日々が続いた。

ただ彼は、優しい子だった。

僕のそんな状況を察してか、回数は少なくなったものの、
ちょいちょい広場に出てきてくれたのだ。

そう、彼の方は、それまでと同じように振る舞おうとしていたのだ。

だけど僕は違った。

友達もたくさん増え、いつも楽しそうにグローブを手に抱えていた彼の様子が、僕にはなんだか気に食わなかった。

そのうち僕は広場に出なくなった。

家に居ると、コンクリートに壁にボールをぶつける音が聞こえてきた。

けれど、ずっと無視していたのだ。

そしていつしか僕たちは疎遠になって行った。

今になったら分かる。

あのモヤモヤした気持ちは、彼に対するものではなかった。

あれはきっと、母親に対する怒りだったのだ。

自分だけが我慢を強いられた理不尽さに、怒っていたのだ。

そしてそのぶつけない怒りを、彼に嫉妬してぶつけていたのだろう。

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