2023/02/03
コンビニ 2
よろめくように私はスナック菓子の棚の方へと足を向けた。ストライキに徹した脳内でぼんやりと化学調味料の蠱惑が想起され、組み立てを放棄することの悦びがよみがえり、意志を伝える間もなく体が先に反応してしまったようだ。周囲の目がないと人は思わぬ奇行に走ることをこの空間は教えてくれる。
いつからか店独自の「プライベートブランド」の商品を見かけるようになった。それはいつの間にか陳列棚の半分を埋め尽くす勢力を誇るまでになり、もはや定番商品と並んでも遜色なき地位を獲得している。そのなかにはあきらかに大手メーカーの〝生き写し〟な商品があり、われわれ消費者はほとんど同等の価値をより安価で享受できるようになった。それが勢力拡大の後押しとなったことは想像に難くない。
私は最初、それらは店側がメーカーの商品を盗用しているのだと思っていたのだが、軽く調べてみると、どうやら両社合意のもとで展開されているものがほとんどであるらしい。自社商品の売れ行きが悪くなるのは目に見えているのにどうしてメーカー側は技術を売り渡すような真似をするのだろうかと訝ったが、メーカーは店側の発注にもとづいて商品の製造を請け負うかたちになっていて、在庫を抱える心配がなく、メーカー側にも一定のメリットがあるようだった。この場合には流通や広告宣伝などの中間業者の介在がなくなり、店側は安価で魅力的な陳列棚を演出することが可能となる。
それらが堂々とした面持ちで並んでいるのに対峙すると、なにか高圧的なものを感じてしまい、私は反射的に眉根を寄せた。冷たいものが脇をつたう感覚があり、胃の腑がきゅっと締めつけられるのを感じた。思わず後退りしそうになるのをこらえ私は、逃げるように棚を移った。冷蔵庫から哄笑が聞こえた気がした。
動悸を沈めるべくふと視線を落とすと、私が幼年の頃から親しんできた駄菓子たちが、追いやられるように棚の端にひっそりと身を固めているのが目に入った。なんともいえない感慨にとらわれた私は、貪るようにそれらを鷲掴みにし、厳選することもなしに次々とカゴへと救出していった。それらの役割が全うされることに社会貢献を感じながら。
カゴの中でがさがさと小躍りする駄菓子に微笑しながら、私は嬉々としてアルコール類が並ぶ冷蔵庫へと足を進めた。今日の組み合わせはこれにて結実に至った。
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