2021/08/23
強い個人も多数派には負ける
ご存知、自然界における食物連鎖の頂点に位置しているライオン。百獣の王として他の動物たちからもっとも恐れられている存在です。
そして同じネコ科の動物で世界最速の速さを誇るチーター。時速100kmで駆けるそのスピードには何者も追いつけず、また何者であっても彼らの襲撃から逃れることはできません。
どちらも動物界では圧倒的強者に位置するネコ科の動物。とくに「狩り」においては、彼らに敵う動物はいないといわれています。
ところが、そんな彼らでも、自分が狩った獲物にありつけないことがしばしばあります。他の動物の襲撃によって眼前の獲物を置いて逃げることがあるらしい。
その襲撃者こそ、横取りが得意な動物として知られる「ハイエナ」です。
ネコ科の動物は群れを形成しません。ライオンの群れもあくまで一頭のオスを中心とした家族であり、他の動物に見られるような共同生活を営んではいません。
そのため、多頭の群れで狩りをすることがなく、自分一頭で獲物を仕留めることもしばしば。そういう場面で、ライオンやチーターが狩った獲物を虎視眈々と狙っているのが、群れで行動しているハイエナたちです。
ライオンやチーターにどれだけ凶暴な牙があり、恐ろしく鋭い爪があったとしても、大勢で周りを取り囲まれたらどうしようもありません。体格で圧倒的に劣るハイエナたちに「おいおい、襲っちゃうぞ」と威圧されたら、狩った獲物を置いて逃げるしかありません。この場合の敗北は、自分も捕食される肉となることを意味するので。
こうして動物界屈指の強さを誇る狩りのスペシャリストたちでも、惨めに敵前逃亡を余儀なくされることが多々あるのだそうです。弱肉強食の世界というのは本当に厳しいですね。
その事実を知って僕が思ったのは、なんだか社会の構造と似ているではないか、 ということです。
どれだけ仕事のできる個人であっても、多数派にその行動を抑えつけられたら、どうしようもありません。
「お前は黙ってろ」
どれだけ情熱をもった改革派が変わる必要性を訴えても、ぬるま湯につかることを望む保守派に提案を却下されたら、革新は起こらない。
人間社会でも動物界と似たようなことがあるじゃないか。そんなことを、僕は感じました。
興味深いのが、群れを形成するハイエナ社会では、厳しい上限関係が築かれている、という点です。
その上下は年齢ではなく”生まれ”。女王の子供として生まれたハイエナは、生まれながらにして女王。たとえ二番目の女王が年上であっても関係なし。幼子の時から、もうすでに女王なのです。
人間社会における昔の身分制度みたいですよね。身分の低い一家に生まれた者は一生その地位に甘んじる。その人間がどれほど強くても、優秀でも、そいつの人生は死ぬまでもう全部決まっている。
そうやってあらかじめ上下関係の基準を決めておかないと、群れの中で優劣を巡った争いが起きるから、なのだそうです。まるで年上の相手を無条件に敬う儒教思想のようですね。
群れの中で生きている者は、大きな群れに守られているので、自分だけが危険な目に遭うことはありません。つまりは群れから離れず、煩わしい決まりごとを遵守していれば、生涯を安全に生きていくことができるということ。
ライオンやチーターは、そのような煩わしい決まりごとに従って生きるのが嫌なので、群れを形成せず一人気ままに生きていく道を選んだのかもしれませんね。それゆえに、個人でも生きていけるように成長(進化)したのかもしれません。
どちらの人生が良いか悪いか、なんて話ではありません。生物には色んな生き方があるのだ、という話です。
ただ二つの動物を見比べた時に、多数派に負けてしまう人生でもいいから、やはり我が道をゆくネコ科の人生を選びたいな、と僕は思いました。