推理小説における製品ライフサイクル

 

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昨日、「アクロイド殺し」を一気に読んで確信した。これは長期戦を覚悟せねばなるまい、と。

物事には当然始まりがあって、発展、栄華、停滞、そして衰退といった流れを辿る。経済論でいうところの「事業のライフサイクル」というやつ。導入期、成長期、成熟期、衰退期、といった製品の寿命について説明した図。ググれば即、見つかるので興味があればどうぞ。

導入期のそれは、非常にシンプルで明瞭である場合が多い。おそらく「分かりやすさ」を重視しているからだと思われる。大衆に向かって〝新しい商品が出ましたよ〜〟と喧伝するためには、とかく分かりやすく、取っ付きやすい宣伝文句である方が好ましいから。最近発売されたアサヒビールの「ジョッキ缶」なんてまさにその代表例。〝缶で生ビールが飲める〟いかにもキャッチーで、周知が早そうである。

そういった新しい商品が市場に〝楔(くさび)〟として打ち込まれると、それを皮切りに他者(他社)が類似商品をこぞって仕掛けてきて、市場にまた一つの新たな「産業」が確立されていく。以降、エリア内で自社商品のポジションを獲得するため、各社試行錯誤のうえの独自商品を大衆へと訴えかける。この競争原理が成長・発展を加速させる。そして次第にどれも似たような商品となり(コモディティ化)、価格競争の末、衰退の道を辿っていく。これが一つの製品のライフサイクル、つまり〝その者〟の一生であると説明される。

この製品ライフサイクルのなかで注目すべきは、導入当初の商品はいかにもシンプルなものであるということ。上記のジョッキ缶のように、際立った一つの革新的アイディアとして世に登場してくる場合が多い。

以降、それを追随する商品たちはさらなる工夫が求められるため、より高度な機能を付す必要があり、必然的に商品の内容も複雑になっていく。ジョッキ缶で、さらにノドごしにこだわっていて、麦芽の香りが芳醇で、そのうえお安い、といった具合に。市場の競争原理から考えれば当然の結果だといえる。

ようやく核心に近づいてきた。

要するに、このライフサイクルを推理小説にあてはめて考えていけば、アガサ・クリスティやコナン・ドイルらの小説群がミステリー業界の「導入期」にあたると考えられ、ここを分析することで、推理小説の面白さの『原型』を知ることができそうなのだ。

事実、「アクロイド殺し」なんかは、まさしく革新的なアイディアに違いないが、その表現技法は至ってシンプル。ある一点の発明級のアイディアを拠り所にして物語が展開されており、それが、まさに気絶するくらい面白い(ネタバレになるので説明しない)。

その革新的手法を純粋に分析するには、まさにこれ以上の教材は存在しない。現代のミステリー小説はこの手法にさらに他の手法も組み合わせて表現してあるので、もちろんその分面白いのだけども、分析するにはちょっと複雑で難しい。教科書というよりも参考書に近い感じであろうか。基礎的な知識をもっている人用の書物。

こうした理由から、これら導入期の小説群を分析する必要性を強く感じた次第。やはり推理小説の面白さ、その手法を会得したいのならば、源流を読まずして語ることはできないのかもしれない。またまた遠回りすることになるが致し方あるまい。ここは売れっ子作家を志す者としては、決して避けては通れないもの。

 

ちなみに、現代の推理小説がライフサイクルのどの位置にあるかというと、個人的には「成長期」に属すると考えている。まだまだ成熟期にも至っていないし、もちろん衰退期なんてとんでもない。

未だ、このジャンルの小説の面白さは発展途上にあると私は思う。むしろ、電子書籍が一般に普及していくであろうこれからが、ますます面白くなっていくのではないだろうか。

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