2021/08/23
止まぬ葛藤。ふいに見つけた名作
まだ昨日の答えは出ていません。頭の中では思考がグルグルと回り続けています。
そんな中、AmazonPrimeでふいに再生した映画に衝撃を覚えました。
『めがね』という日本の映画です。
タイトルから内容がまったく想像できない、というエンタメ精神をほとんど感じさせないこの映画は、与論島(鹿児島県)のとある民宿を舞台にした男女五人の物語です。登場人物五人が全員メガネをかけていて、それがタイトルの意味であるようですが、別にそれが映画の主題というわけでもなく、タイトルなんてほとんどあってないようなもの。ウェキペディアによれば「めがね」というタイトルにしようと思い立ち、それから役者全員にメガネを着用させたそうです。
ジャンルでいえば「ヒューマンドラマ」ということになるのでしょうか。このての映画をカテゴリーで括るなんて野暮なことですが、どんな内容か分からないと観る気が起こらない、という人もいると思いますので。映画はその時の気分と合致することが観賞するにあたってのベストな状況だとすると、この映画は間違いなく「社会に疲れた時」に観るべき作品であると思います。
この映画の劇中では、ほとんど説明がなされません。
誰が何者であって、与論島のへんぴな民宿になぜ訪れているのか。その動機や背景なども、詳しくは語られません。ただなんとなくそれらしいことが繰り広げられている会話から察せられる程度。主人公である小林聡美演じるタエコは「先生」と呼ばれていますが、その人となりすらも最後まで語られることなく、他の人物との関係性もまったく明かされません。
また、これといった事件も起こりません。
民宿に泊まりにきた主人公が、そこに集まってくる人々と滞在中にひたすら会話を繰り広げるだけ。男女の恋愛やハラハラする出来事、特段のグルメ情報もなし。上映2時間中はひたすら砂浜とバカみたいに美しい海の映像が流れている。そのタイトルやパッケージ通り、とても地味で、エンターテイメント性がほぼ皆無である映画です。
しかし、込められたメッセージは、痛いほどに伝わってきます。
人に対する思いやり。相手を尊重すること。
相手に自分の価値観を押し付けない。親切が親切となりえなくなることもある。人に何も期待しない。そして、求めない。
もたいまさこ演じるサクラという不思議な女性の立ち振る舞いが、周囲の人間たちに、心地の良い人間関係の形、あるいは本来あるべき自然な姿に気づかせてくれます。何も教えることなく、何も指摘することもなくして。
そしてその姿勢は、映画の鑑賞者であるこちらに対しても同様です。何も啓発しないし、何も訴えかけてはこない。観る者が映像から勝手に感じ取って勝手に心を震わされる。まさに作り手の感性と観る者の感性とが映像の中で交流を図れるような、そんな心地の良い感覚を味わうことのできる映画でした。
あれだけ説明を省き、映像だけでこれほどのメッセージを伝えることができるのか・・。その無駄のなさと描写の巧みさ。派手さがまったくないのにあれほど人の心を動かすことのできる監督兼脚本家のその感性に、心から感銘を受けました。
本当にものすごい映画だと僕は思います。
良い作品に触れることも、創作活動を行う者にとっては大事だと個人的に思っています。
それが自身の感性に広がりをもたらし、そして自身の創作意欲を刺激してくれるからです。
作家は苦しいけれど、何かを創造することは、やはり楽しいことです。
きっと、これを読んでいる誰かにとってもそうだと思います。
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