2020/08/03

母の後悔、僕の後悔

 

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僕は自我の形成が遅かったのだと思う。

だから小さい頃の記憶があまりなくて、
最初の記憶をたどった時に出てくるのは、
幼稚園でも年長の頃の記憶しかない。

「トイレに行きたい」
というセリフを言うことができず、
ずっとお漏らしを繰り返していたのが
恥ずかしいことだと知った時だ。

こんな思いをするのはもう嫌だと思い、
初めて自分から手を挙げ、先生を呼び、
自分の意思をしっかりと相手に伝えた。

あの日からようやく「自分」
というものが始まった気がする。

そういう妙な記憶は残っている。

それを口にすると、いつも両親からは、
「なんでそんなことを覚えてるの? 笑」
と言われる。

まるで、
「なんであんなに大事なことは忘れてしまったの?」
と言われているような気がした。

あの記憶もそうだ。

僕が小学校低学年の頃、
休日に家族でドライブに出かけた。

理由は忘れたけど、時間がとにかく押していて、
早く出かけなければと家屋全員が焦っていた。

そのせいで、車に乗り込む時に事件が起きた。

いつも父が運転して、母が助手席に座り、
僕と姉は後部座席に座るのが決まりだ。

左側の後部座席が僕の指定席。

全員が小走りで車に向かい、
狭い車庫に止められた車のドアを開け、
さあ席に着いたと思ったその時・・

助手席の行く手を塞いでいた
後部座席のドアを閉めた母は、
最後まで僕の動きを見ていなかった。

僕は左手で車体を掴みながら
体をシートに滑り込ませていたのだ。

”バンッ!”

ドアが閉まった音と同時に、
左手が急に圧迫されたのを感じた。

「痛っったああいい!!」

僕の叫び声に振り向いた母が
急いでドアを開けると、
僕の左手は赤く変色していたのだ。

「ああ!! ごめん!!」

母はもの凄く申し訳なさそうな顔をした。

と同時に、自分の行動を、
心から後悔している感じがした。

だけど僕は、その日一日、
ずっと口を利かなかったのだった。

自分でもよくわからない。

なぜあんなに叫び声を上げたのだろう?

なぜ痛くもないのに、
大げさに左手を押さえてうずくまったのだろう?

その日、母は、
気の毒なくらい僕に冷たくあしらわれた。

そして翌日の夜、母は、
こたつにちょこんと座った僕の前に座り、
目線の高さを合わせて真剣な顔で言った。

「本当に、ごめんなさい」

その顔は、激しい後悔で歪んでいた。

僕は平然と「いいよ」と言ったが、
本当はこっちの方が謝りたいくらいだったのだ。

あの後悔の気持ちは、凄く鮮明に覚えている。

生まれて初めて感じた後悔かもしれない。

今でも思い出すだけで、
あの時の激しい罪悪感が湧いてくる。

あの体験は、たしかに僕の心に、
大きな学びをもたらした。

自分が大切にされていない、
そう思ったのかもしれない。

はたまた、親の愛情を
わざと確認したかったのかもしれない。

よく分からないが、あの時、
とにかく僕は怒っていて、
そんな行動をとってしまった。

その結果、大人になるまで忘れられない、
大切な学びを手にすることができた。

それは、たしかな事実だ。

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