2023/08/16

生きるとは自殺への反抗

 

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実態にろくに目も向けず深く考えないように明るく振る舞って生きようとする姿勢を「空元気」、思わず目を背けたくなくなる事柄をも直視し陰鬱に沈んでもなお顔をあげ歩き出そうとする姿勢を「前向き」だと規定するのなら、自ら命を絶つ行為はひとつの『解放』に相当する、というこの考えを披露することを憚らない。

人生に意味はなく、我々が営む行為もしょせんは無に帰するだけであり、しかも予告もなく唐突にその日が訪れる不安や恐怖に怯えながら時を過ごすことが生きることであるとしたら、空から見た我々の存在はもろにこの世界の囚われの身に映る。滑稽なダンスに興ずる集団、格好の酒の肴。無駄だと知らず必死に虫かごのなかを飛び回るバッタを眺めるような優越感を味わっているのだろうか。あるいは観衆すらもいないのかもしれない。そうなったらいよいよ花が咲いては無為に散っていくような光景に映ってしまう。

自らその時を定める行為は、そうした囚われの身から己を解放することを指す。越えてはまた立ちはだかる困難、不安の波とかりそめの安堵に翻弄され、絶望の闇と希望の光に一喜一憂させられるこのゲームから降りる。自分はもう付き合わないぞと意志を示す。ともすればこれはタイトルにある反抗に見えてしまうかもしれないけれど、希望を捨ててしまうことから反抗だとはいえない。授かった機会を終わらせるという行為も、それも囚われの身に受容したことを指すからだ。

解放などと大袈裟な言い方をするからわかり辛いのかもしれない。解決策のない悩みに苦しんでいる人が、持って生まれた身体の重荷によって辛酸を舐めている人が、逃れられない責任でがんじがらめになっている人が、ふとした時に頭をよぎる「ああ、もう死にたいな」というその考えは、道徳的な見地や体面的な見え方を一切取っ払えば当人にとっては紛れもなく〝解決の手段〟を意味する。なにせ問題は生きているがために起こっているのだから。根源を断つその矛先に生命が向けられるのはむしろ自然なことだといえる。

あらゆる苦悩は我々が生きていることに起因している。だからこそ〝その行為〟は自らの解放以外のなにものでもない。不謹慎だと言われてしまうのはわかっているけれど、絶望するほど苦しんでいる人間が欲するのは、論理の処方箋ではなく感情の麻薬なのではなかろうか。それが非合法であろうとこの苦痛を癒してくれるかどうかでしか見ることができないのだ。だからこそ解放は真理であると私は考える。

そうした解放という真理に真っ向から立ち向かい、誘惑に逆らってこの絶望を堂々と生きていくことを、アルジェリアのノーベル賞作家は『反抗』であると謳った。

この世界が不条理であることも、我々の人生になんら意味がないことも、自ら命を絶つことが解放に相当することも、すべては偽りのない現実。けれどもその現実を直視したうえで、なおも生きるという営みをつづけるべく日々を過ごす。己の内からふつふつと湧き起こる熱情に従って。絶対に拒否してやるというその闘争心に従って。

特筆すべきは、その反抗が決して成就することがないという真理をも理解したうえでそれでも反抗する、つまりは生きる(できるだけ多く生きる)という選択をするのだと説いた点。紛れもない無為な反抗をしつづけるのだと氏は述べた。

──重要なのは和解することなく死ぬことであり、すすんで死ぬことではない。──

なんと意志的な生き方であろうか。そんなのはまさしく努力目標の域を出ないではないか、というもっともな反論は承知したうえで、それでも意志的に生きようとするその態度に私は感銘を受けた。いや、その本質的な〝前向き〟な心持ちで生きようとするその姿勢に深い共感を覚えた。そうだ、闇をも受け入れたうえで自分なりの光を模索しようとすること、それが何よりも大事ではないかと思うのだ。

 

 

著者本人もいうように上記はあくまで一つの考え方にすぎない。腑に落ちるという人もいるだろうし、まったく賛同しかねるという人もいて当然。ただともかくも重要なのは自分なりの〝指針〟を立てて生を営むことではないかと思う。

私にとってはすとんと腹に落ちる考え方だった。振り返ってみれば、自分の過去とは反抗の日々であったと思うし、現在もそうに違いないと思う。何に対する反抗なのかはわからない。何かしらの対象に向かって「従ってなるものか」「負けてなるものか」と日々やたらと気負って生きている次第。はたから見たらまさしく滑稽に映るだろうと思う。いいじゃないか、正常、正常。笑われる有り様であるのが自分を生きるということなのだから。

今日も私は反抗している。何に対してかはわからない。少なくとも自殺に対して反抗しているとはいえるのかな。

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