2020/08/03

男を見下す女性客

 

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『侮辱』について・・

不動産屋の営業マンをしていた時、
ルームシェア用の部屋を探している女性客を接客したことがある。

この二人の女性客は、お互いに20代後半で、
二人とも結婚を前提に交際している彼氏がいた。

本人たちはすぐに結婚することは考えておらず、
その時期がくる前に一度は一人暮らしを経験してみたいと思ったそうだ。

ただ女性が一人で暮らすには何かと不安もある。

そこでルームシェアという半一人暮らしの形にするのが、
本人たちにとってはベストだったようだ。

彼女たちは最初から嫌な感じだった。

こちらが部屋の希望を聞いても、
「そこの来店カードに書いてあるでしょ?」
と言って細かいことを教えてくれない。

少し突っ込んだ質問をすると、
「はっ、そんなことも分からないんですか?」
と言ってこちらを小バカにしてきた。

かといって一人暮らしは初めてなので、
彼女たち自身はロクな知識を持っていない。

それなのに、この二人は、
インターネットの掲示板から裏付けのない情報を集め、
「私たちは不動産に詳しい」という態度をとっていた。

僕はあまりに二人が間違った知識に凝り固まっていたので、
円滑に部屋探しができるようアドバイスをした。

が、彼女たちはそんな言葉などロクに聞きもしない。

自分たちの偏った知識の間違いを認めず、
叶いそうにもない部屋の希望すら妥協する素ぶりを見せなかった。

その彼女たちの態度を当初は、
(一流企業に務めるキャリアウーマンたちのプライドか?)
などと考えていた。

ただ時間が経過しても一向に変化しない彼女たちの頑なさに、
僕は「何かあるな・・」と思うようになっていった。

そして埒のあかないこの二人の部屋探しに対し、
僕は開き直って正直な思いをぶつけてみた。

「二人とも、不動産屋のこと嫌いでしょ?」

すると二人の女性客はお互いに顔を見合わせ、
思わずクスッと笑みをこぼした。

僕は続けて言った。

「別に部屋が気に入らなかったら契約しなくていいですよ」

数時間後、彼女たちは印鑑をついていた。

しかもまだ人が住んでいる一ヶ月先の空室予定の部屋で。

もちろんその部屋は一ヶ月後に確実に空室になるし、
彼女たちの入居は100%保証されている契約だ。

ただ契約を終えて足を踏み入れるまで、
実際に部屋の中を確認することができない。

つまり彼女たちは「資料」だけを見て契約を決断したのだ。

営業マンにとってこれほど信頼関係の構築を確信させてくれる契約はない。

彼女たちが、
「じゃあ、この部屋で契約します」
と言った時に僕はすべてを理解した。

彼女たちは不動産屋が怖かったのだ。

それまでに来店した不動産屋では、
女だからといってナメた態度で応対されたのかもしれない。

あるいは強引に契約を迫られたのかもしれない。

女同士の部屋探しだからと足元を見られ、
理不尽な要求を受けてきたのかもしれない。

だから「相手にナメられちゃいけない」と思ったのだ。

その強い覚悟が、僕に対する感じの悪い態度として表れたのだろう。

僕が開き直って正直な気持ちを告げたことで、
彼女たちは僕に少しだけ心を開いてくれたのだった。

彼女たちの背中を見送りながら思った。

「僕にもこんなことが出来るんだ」

他人の気持ちが分からないこんな僕にも、
他人から侮辱される人の気持ちは理解できた。

他人から馬鹿にされ、見下されるからこそ、
他人に対して攻撃的な態度をとってしまうその気持ちが理解できた。

たとえ他人の気持ちに共感できなくとも、
自分と同じ苦しみならわかってあげられるのだと気付いた。

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