2020/08/03

「お金が欲しい」と言いたかった

 

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『嫉妬』について・・

20代前半の頃に不動産屋の営業マンをやっていた。

それまでは飲食店、肉体労働系の派遣バイトと、
定職に就いた経験がなかったので、
初めて会社員になったのがこの不動産の仕事だ。

尚かつこれが、僕の唯一の会社員経験だ。

なぜ不動産業界を選択したのかというと、
不動産は非常にわかりやすい業界だからだ。

「数字が出せる社員は評価され、数字が出せない社員はゴミ扱いされる」

飲食店や肉体労働の現場は、完全なる年功序列社会だった。

若かろうが歳を取っていようが、
先に入れば兄さん、後に入れば「お前」になる。

もちろん実力や経験は考慮されるが、
どちらにしても、出世するためには時間がかかる。

田舎から逃げ出し、何か大きな事をしたいと思っていた僕には、
5年も10年も待っている余裕はなかったのだ。

その点、自分の仕事ぶりが数字に表れる営業の仕事はわかりやすい。

さらに不動産業界は学歴も年齢も一切関係がなく、
「とにかく出来る奴が上に上がる」という非常に明瞭な業界なのだ。

その業界にいる人物から話を聞いた僕は、
ようやく自分も就職する時がきたと思ったのだった。

2年ほど勤めた頃には、既に仕事にも慣れて後輩も何人かいた。

依然として大きな成果は出せていなかったが、
僕は後輩育成の面白さに目覚めつつあった。

自分で作成した指導マニュアルを元に、
業界未経験の後輩を相手に熱弁を奮っていた。

ある意味、自己満足な部分もあったのかもしれない。

自分の話を素直に聞いてくれる相手というのは、
ただそれだけで何かと教えたくなるものだ。

その状況が気持ち良かったのかもしれない。

ただ、自分が指導した後輩が初契約を取った時の喜びは、
他の社員とは一味違ったものだったと思う。

そんな後輩の中でも、僕とは合わない奴も何人かいた。

そのうちの一人は、自らの力で一人前になり、
2年経った頃にはそこそこの頭角を現していた。

またその後輩は、僕の大嫌いな先輩を師匠としていた。

その先輩はとにかく数字だけしか見ない人で、
僕にはあまりにも自分勝手な人物に映っていた。

だけど後輩は、この先輩を師匠としてから頭角を現すようになっていたのだ。

そして2年半ぐらい経った頃、彼の実力は一気に開花した。

常に全社員の営業ランキング上位に名前が掲載されるようになり、
上層部からいくつか賞を貰うまでになったのだ。

僕はそんな後輩の活躍を他人事のように見ていた。

自分が育てた後輩ではないし、また、
自分の嫌いな先輩のやり方で結果を出していたので、
完全に自分とは別ルートを歩んでいると見ていたのだ。

そんな後輩に僕は言った。

「いや、君の活躍はすごいね。僕は君ほど鬼になれないわ。それに後輩育成が楽しいからな」

あのセリフは嘘だったわけではない。

だけど自分の本心は隠されたままだったと思う。

僕は彼が羨ましかったのだ。

彼のように、ただガムシャラに数字だけを追いかけ、
圧倒的な数字を残し、大金を手にしたいと思っていたのだ。

そんな事を堂々とやる彼、そして先輩が、
本当は羨ましかったのだ。

自分も下品に欲望をさらけ出したいと、
本当は、思っていたのだった。

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