2021/08/23
「お金が欲しい」と言いたかった
『嫉妬』について・・
20代前半の頃に不動産屋の営業マンをやっていた。
それまでは飲食店、肉体労働系の派遣バイトと、
定職に就いた経験がなかったので、
初めて会社員になったのがこの不動産の仕事だ。
尚かつこれが、僕の唯一の会社員経験だ。
なぜ不動産業界を選択したのかというと、
不動産は非常にわかりやすい業界だからだ。
「数字が出せる社員は評価され、数字が出せない社員はゴミ扱いされる」
飲食店や肉体労働の現場は、完全なる年功序列社会だった。
若かろうが歳を取っていようが、
先に入れば兄さん、後に入れば「お前」になる。
もちろん実力や経験は考慮されるが、
どちらにしても、出世するためには時間がかかる。
田舎から逃げ出し、何か大きな事をしたいと思っていた僕には、
5年も10年も待っている余裕はなかったのだ。
その点、自分の仕事ぶりが数字に表れる営業の仕事はわかりやすい。
さらに不動産業界は学歴も年齢も一切関係がなく、
「とにかく出来る奴が上に上がる」という非常に明瞭な業界なのだ。
その業界にいる人物から話を聞いた僕は、
ようやく自分も就職する時がきたと思ったのだった。
2年ほど勤めた頃には、既に仕事にも慣れて後輩も何人かいた。
依然として大きな成果は出せていなかったが、
僕は後輩育成の面白さに目覚めつつあった。
自分で作成した指導マニュアルを元に、
業界未経験の後輩を相手に熱弁を奮っていた。
ある意味、自己満足な部分もあったのかもしれない。
自分の話を素直に聞いてくれる相手というのは、
ただそれだけで何かと教えたくなるものだ。
その状況が気持ち良かったのかもしれない。
ただ、自分が指導した後輩が初契約を取った時の喜びは、
他の社員とは一味違ったものだったと思う。
そんな後輩の中でも、僕とは合わない奴も何人かいた。
そのうちの一人は、自らの力で一人前になり、
2年経った頃にはそこそこの頭角を現していた。
またその後輩は、僕の大嫌いな先輩を師匠としていた。
その先輩はとにかく数字だけしか見ない人で、
僕にはあまりにも自分勝手な人物に映っていた。
だけど後輩は、この先輩を師匠としてから頭角を現すようになっていたのだ。
そして2年半ぐらい経った頃、彼の実力は一気に開花した。
常に全社員の営業ランキング上位に名前が掲載されるようになり、
上層部からいくつか賞を貰うまでになったのだ。
僕はそんな後輩の活躍を他人事のように見ていた。
自分が育てた後輩ではないし、また、
自分の嫌いな先輩のやり方で結果を出していたので、
完全に自分とは別ルートを歩んでいると見ていたのだ。
そんな後輩に僕は言った。
「いや、君の活躍はすごいね。僕は君ほど鬼になれないわ。それに後輩育成が楽しいからな」
あのセリフは嘘だったわけではない。
だけど自分の本心は隠されたままだったと思う。
僕は彼が羨ましかったのだ。
彼のように、ただガムシャラに数字だけを追いかけ、
圧倒的な数字を残し、大金を手にしたいと思っていたのだ。
そんな事を堂々とやる彼、そして先輩が、
本当は羨ましかったのだ。
自分も下品に欲望をさらけ出したいと、
本当は、思っていたのだった。
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