2021/01/14

この街の不動産屋さん 13の続きの続き

 

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〜続き〜

 「皆さんは、どんなことを考えてこの動画を撮りましたか?」

 ファッションや美容に関する動画を配信しているユーチューバー、小西が店主たちに向かって問いかけた。彼のその咎めるような口調は、人助けの気持ちからきているらしいが、店主たちは憮然とした表情を浮かべている。

 「私は、見る人にとって有益なものを撮ろう、と考えました」

 米田が半ば反抗するような口調でそう主張した。彼が撮影したのは、ダイニングカフェ店主の知識を活かした「美味しいエスプレッソコーヒーの淹れ方」という動画であった。

 「私も米田さんと同様です。動画を見た人が何かを得られるように、と思って撮りました」

 馬場が撮影したのは美容院経営者らしく、おしゃれなヘアセットの方法という動画であった。女性型のマネキンに、ヘアワックスを使ってセットを施していき、随所に馬場が説明を入れていくという内容だ。

 実はこの二人に限らず、店主たちが披露した動画は、おしなべて各々の知識を口授する動画であった。イタリア料理店店主の加藤はマルゲリータピザ、ラーメン屋店主の支那は塩ラーメン、居酒屋店主の朝日は白身魚の塩焼き、ケーキ屋店主のピエールはチョコレートケーキ。それぞれに「美味しい作り方」という言葉が付いている点も同じであった。

 「どの点が、見ている人にとって有益だと考えましたか?」

 まるで店主たちを焚きつけるようなその小西の口調は、進行役として見守っている高杉をも不快な気分にさせた。周りのユーチューバーたちもはらはらしているのか、各々の様子に少し落ち着きがない。

 「プロの知識、という点です。お店で修行しないと知れないような専門的な知識が得られる、というのは見る人には有益だと思います」

 自信たっぷりに米田が言った。

 「それに”プロが教える”というのも有益ですよね。説得力がありますから」

 馬場の発言に他の店主たちも同意を示した。どうやら彼らは、同一の考えのもとに各々の動画を撮影したようだ。示し合わせたわけでもないのに不思議なものだと高杉は思った。

 「自分の感じる価値と、相手の感じる価値を、同じだと考えるのはやめた方がいいです」

 小西はこれまでより一層強く断言した。

 「皆さんのもつ知識は、一般人よりも遥かに深く、遥かに高度であるのは間違いないと思います。だけどそれをそのまま視聴者に伝えたところで、視聴者はあまり有益には感じません。なぜならそんな高度な知識、知ってもあまり使い道がありませんから」

 小西の説明にまだ店主たちは憮然とした表情を浮かべている。ただ高杉は「良い物」の価値が変化している、という以前に自身が彼らに説明した話を思い出していた。

 最高のだし巻きを作る知識が決して最高に価値のある知識ではない、小西が言いたいのはつまりそういうことではなかろうか。それが時間も手間もかかるものならば、家庭で再現するのは難しいだろう。

 「誤解しないでもらいたいのが、どんな動画であっても、一回も再生されない、なんてことにはまずなりません。投稿した動画はどこかの誰かには見られます。ただ、その皆さんのような考え方で動画を撮っていくと、いつか限界がくるんですよ。”もう出すものがない”と。そうして挫折してしまう人が大半なんです。僕の周りでもそれで辞めていった人がたくさんいます」

 小西は納得していないであろう店主たちに補足を加えた。口調はともかく、彼の必死な様子はひしひしと伝わってくる。

 「僕からも補足させて下さい。その手の”知識”を売りにした動画は、すぐに競争に巻き込まれてしまうんです。他の人にとっては高度でも、その道のプロにとっては平易ですから。すると結果的に、そのユーチューバー自身の”知名度”とか”肩書き”とか、そういう勝負になってくるんですよ。そうなると有名な人の方が絶対に有利ですよね? だから小西くんは、最初の時点でその考え方をしない方がいい、という話をしているのだと思います」

 加地の補足した説明を聞き、店主たちの堅い表情は少し氷解を見せた。この加地という青年の話し方には説得力がある。ふと、高杉の頭に瀬下の顔が思い浮かんだ。

 「ユーチューブは投稿者の『個性』がものをいうSNSです。個性のない動画は、見られはしても、チャンネル登録者を獲得することはできません。単に知識を垂れ流すだけでは決して個性が出ません」

 小西はそこまで喋ると、少し間を置いてから、店主たちに宿題を出した。

 「まずは動画に個性を出して下さい」

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