2020/12/23

この街の不動産屋さん 7の続き

 

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~続き~

 「レペゼン堀江のウェブサイトは見てもらえましたか?」

 打ち合わせは事前に通達していた事項の確認から始まった。

 「ひと通り見ました。とてもワクワクするデザインですね」

 その加藤店主の言葉が本音なのであれば、プログラマーが想定した「新設されたテーマパーク」というデザインは図に当たったといってよい。ウェブサイトの第一印象は、対人関係と同様に、人との出会いにおいて重要な要素となる。

 「まだ制作の途中ではありますが、全体としてはあのような形になります」

 ウェブサイトの外観はほぼ完成している。不足しているのはその中身なのだ。

 「あの”テーマパークのパンフレット”のような地図のところに、お店の情報を表示させるのですね」

 加藤のこの言葉からして、ひとまずイメージ戦略は奏功したとみて間違いなさそうだ。これでレペゼン堀江の第一の課題は突破したことになる。

 そう、”情報の羅列”では自分の描いた理想は実現しない、と高杉は考える。

 彼が当初思いついたものは、堀江の地図上に数カ所の印を表示させ、そこをクリックすると店の情報が表示されるというデザインであった。堀江を紹介するウェブサイトという役割から考えれば、それは自然な発想であると思う。

 実際、よく知られた宿探しのウェブサイトにも似たようなデザインが使われている。地図上に矢印を表示させ、そこをクリックすると宿泊施設の情報が表示されるというものだ。宿の料金プランと立地条件を同時に知れるという点で、旅先の宿を探している者にとっては合理的なデザインであるといえる。

 しかし、デモンストレーションのために”仮”レペゼン堀江を同様のデザインで作ってみたところ、高杉は己の発想の過ちを痛いほど思い知らされることとなった。完成したのはまったくもって退屈なウェブサイトだったのだ。

 自身でデモンストレーションを行ってみるとそれは如実に体感することができた。単なる情報の羅列ほど、見る者を退屈させるものはない。

 この時、高杉はこれ以上ないほどの挫折感を味わった。自分の描いた未来予想図は人々の暮らしを豊かにするものではないのかもしれない。そう感じるほどに深く落ち込んでしまった。

 それからはしばらく絶望の淵を彷徨っていた。いよいよ引き際を考える段階にまでなったが、妻の一言が状況を転換させたのは前述した通りだ。

 レペゼン堀江に宿探しの合理性をそのまま導入しても上手くはいかない。

 その事実は高杉を長い間苦しめたが、ひょんなきっかけが彼に発想の転換をもたらした。

 ”やるべきことは街の紹介ではなく、その街で得られる『価値』の紹介なのではないか・・?”

 訪問者たちがその街でどんな体験を得られるのか。レペゼン堀江の役割は、情報の提供ではなく価値の提供にある。その発想に至った時、高杉はいたずらに情報を与えることの愚かさに気がついたのであった。

 第一印象の課題は突破した。

 重要なのは、これ以降の課題である。

 「この”テーマパークのパンフレット”のような白地図に情報を掲載していくことは確かです。ですが、単に店の情報を羅列するわけではありません」

 同じ轍を踏むわけにはいけない。デモンストレーションでの挫折はここに活きている。

 「そうですか、それならば安心しました。実を言うとその点が少し不安だったんです。これでは観光マップとなんら変わりはないだろうと」

 高杉がしていた挫折は、加藤にとっては当然に予期されるべき失策であったらしい。おそらく打ち合わせを強く望んだのはこのためだったのだろう。このままでは失敗は目に見えている。高杉にそう忠告するつもりだったのかもしれない。

 「それで、ここに何を掲載していくのですか?」

 加藤のこの質問に、高杉は質問返しで答えた。

 「そこで伺いたいのですが、加藤さんはこの街の店主に知り合いはいますか?」

 

〜続く〜

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