2020/12/28

この街の不動産屋さん 9の続きの続き

 

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〜続き〜

 「いやしかし、たった三ヶ月間で結果が出るとは思いませんでした」

 そう口にしたのはダイニングカフェ店主の米田だった。彼は美容院経営者の馬場に次いで企画の参加に躊躇を示していた店主だった。

 「最初は何をデタラメ言ってんだよと思いましたが、思い切って一歩を踏み出して本当によかったです。高杉さん、ありがとうございました」

 高杉はいえいえと言って笑顔を返した。謙遜などではなく、自分一人の力では到底実現しなかったであろうと思っていた。

 「加藤さんが我々に声をかけてくれたお陰です。その先見の明に感謝します」

 「私はただ高杉さんの企画を皆さんに紹介しただけです。参加を決めたのは皆さん自身ですから、一人一人に先見の明があったということですね」

 そう、加藤という男の存在がすべての契機となった。思えば彼のイタリア料理店で川上たちの歓迎会を開いたのが出会いのきっかけであった。あの時に加藤の方から声をかけてくれなければ高杉と加藤が知り合うこともなかったかもしれない。

 しかも最初企画の内容を聞いて躊躇していた加藤が参加に踏み切ったのは、「初めての歓迎会が自店で開催された」という単なるご縁以外の何物でもない動機からだった。もちろんそれがすべての決め手になったわけではないだろうが、数々の不確定要素から好機の匂いを嗅ぎ取ったその嗅覚は、たしかに先見の明に値するといえるだろう。

 高杉もまさかこのダンディなピザ職人が猿田彦命(さるたひこのかみ)になろうなどとは思いもしなかった。日本神話において天孫降臨の際にニニギノミコトを道案内した猿田彦命は”導きの神”として知られている。

 いつの時代も、大志を成し遂げるには、それを導いてくれる存在というのが必要であるらしい。

 我が社にとって唯一無二の参謀となった瀬下にしてもそうだが、自分は本当に人の出会いというものに恵まれている。高杉は心の底からそう思った。

 「なんにしてもこれで万事安心ですね。あとは加盟店を増やしていきさえすれば、会員になるインスタグラマーも自然と増えていくでしょう」

 レペゼン堀江の新規会員はウェブサイトから入会者を募っていた。

 「新設されたテーマパーク」を意識してデザインされたこのウェブサイトは、トップ画面に堀江の地図が配されている。遊園地のパンフレットを模したこの地図は、当初はただの白地図でしかなかった。しかし、プロジェクトに加盟する店舗が現れると、白地図は加盟店の内装写真や料理の画像によって楽しげに彩られた。

 そうしてレペゼン堀江プロジェクトは本格的に始動し、すぐにウェブサイトが広告にかけられた。

 事業者にとってSNSは広告の場でもある。簡単な手続きを踏めば自身のウェブサイトを手軽に広告にかけることができるのだ。しかも数千円から数万円という単位で広告を出稿することができる。

 インスタグラマーから入会者を募るレペゼン堀江は当然、インスタグラムに広告を出稿している。そこから入会希望のあったインスタグラマーたちに事前審査を行い、問題がなければレペゼン堀江の会員資格を付与している。

 ただ、広告を出稿すればすぐに会員が獲得できるなどという簡単な話ではない。

 「これだけお得な特典がついているのですから、今後は会員数も右肩上がりに増えていくでしょうね」

 ましてやなんの工夫もなく会員数を維持できるほど甘いものでもない。

 「話に水を差すようで申し訳ないですが、このまま加盟店を増やすだけでは、会員数は徐々に目減りしていってしまうと思います」

 高杉は打ち合わせの本題に入ることにした。

 「今も順調に会員さんは増えているんでしょう? 大丈夫ですよ」

 馬場がいかにも楽観的な言葉を返した。あれだけ成果が上がっていればそう感じるのも無理はないかもしれないが。

 「いま会員数が増えているのは”真新しさ”のお陰だと私は考えています。これまでにない仕組みなので利用者が集まっているのでしょう。半分くらいはとりあえず入会してみた、という会員さんだと思います」

 「たしかに。月一万円は決して安くはないですが二、三回外食したと思えば安いもんですよね。外食だけじゃなくて様々なサービスが楽しめるわけですし」

 加藤が冷静な分析を述べた。イタリア料理店の窯焼きピザと彼の風貌はインスグラマーたちにも好評らしい。

 「新たな加盟店もそのうち頭打ちになります。そうなれば会員さんたちにもすぐに飽きられてしまうでしょう。それまでに更なる価値を提供する必要があります」

 高杉は店主たちの顔を見回しながら自身のプレゼンテーションを進めた。

 「では高杉さんの頭の中には次の案があるのですか?」

 馬場が訝しむように問いかけた。

 「はい。そのために今日は彼を連れてきました」

 そう言って瀬下に椅子からの起立を促した。

 「皆さん、初めまして。高杉の会社で主任を務めている瀬下と申します。ここからは高杉に代わり、私から説明をさせていただければと思います」

 軽く自己紹介を述べると着席し、瀬下は持参していたノートに目を落とした。

 「現段階のレペゼン堀江では、会員資格について、フォロワーを三千人以上有するインスタグラマーと定義しています」

 企画者である高杉ら、加盟店である堀江の店主ら、会員であるインスタグラマーらが全員参加でこの街をレペゼンする、というのがこのプロジェクトの趣旨である。

 「ただ、影響力を持っているのはインスタグラマーに限りません。この時代において絶対に見過ごすべきでない相手が存在します」

 それはつまり? という視線が瀬下に集まった。

 「次に会員を募るのは『ユーチューバー』たちです」

 

〜続く〜

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