2020/08/03

不幸な出来事その9「従業員との別れ」

 

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それは人生で一番辛い別れだった。

彼は予備校時代の7つ年下の後輩(K)。

第一印象は純朴な田舎の青年という感じで、
話していると誠実で良い奴なんだというのが伝わってきた。

実際、雇ってみると第一印象そのままに、
約束した仕事はキッチリと完了させる奴だった。

間に合わなければ休日を返上してまで。

「自分の目に狂いはなかった」
そう思った僕は彼にどんどん仕事を任せた。

会社のクレジットカードや現金まで渡していたほどだ。

Kの純朴さを表すこんなエピソードがある。

僕が事務所で仕事をしていると、突然、Kから電話がきた。

「帰ってきたら僕の部屋に誰かいるんです・・」

「えっ、マジかよ? 今どこにいるの?」

「階段で電話してます」

「わかった。とりあえず部屋の鍵を締めてそこにいろ」

僕は仕事を中断して急いでKのマンションに向かった。

もしも彼が中の人物と鉢合わせしてしまったら・・
Kが妙な事件に巻き込まれないようにと僕は祈った。

20分ほどしてマンションに着くと、
幸いにも一人で怯えているKの姿があっただけだった。

ただマンションには赴いたものの、
僕にもどうしていいのかわからなかった。

部屋にこもっているのがどんな相手なのかもわからない。

僕だって怖い。

けど、しばらく経つと、
「なんで部屋にこもってんの?」
という疑問が湧いてきた。

「相手はどんな人物だった?」

「いや、見てないんですけど、トイレにいます」

「トイレ? どうしてわかるの?」

「トイレの鍵が締まってて開かないんです。だからたぶん、中から鍵をかけてるんだろうなと思って・・」

たしかに自分の部屋のトイレに鍵がかかっていたなら、中に人がいると思うのは当然だ。

ただ考えみれば意味不明だ。

もしも空き巣に入ったのなら、
隠れたところでいずれ見つかる。

僕は十円玉を使ってトイレを解錠し、
勇気を出して扉を開けてみた。

すると・・中には誰もいなかった。

振り返ってドアの取っ手を見てみると、
鍵の部分がグラグラしているではないか。

要するに、単なる鍵の劣化で錠が少し回っていただけだったのだ。

「・・いや、気付けよ!」

本気で怯えて電話してきたKを可愛い奴だなと思った。

まあ途中で気付かなかった僕もどうかと思うが・・。

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