2020/08/16

口パク、中距離保持揺動、虚偽笑顔で口臭回避

 

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口習を気にする僕にとって合唱は地獄の時間でした。

歌うことは息を吐くこと。

口習を気にする人は息を周囲に吐きだす様子を
イメージすると思います。

僕なんかは自分の息を空間に充満させ、
自分のせいで周囲の人を悶絶させてしまう、
迷惑をかけてしまう、そんなふうに苦悩する時間でした。

周りから話し声が聞こえてきたら
(自分のことを言われてるんじゃないか?)とセンサーが即反応します。

横目に少しでも鼻に手をもっていく友達の仕草を見ればもう冷や汗が止まりません。

何時間もこの状況に怯えて体を縮こませ、
脇の下がビチャビチャになるほど冷や汗をかくような、
苦痛以外のなにものでもない時間です。

とにかく・・とにかく、早く終わってほしい。

 早くこの空間から抜け出したい。

この状況に追い打ちをかけたのが、
当時の担任の先生の“熱意”です。

先生はこの合唱指導にかなり情熱的でした。
(この先生にはなんの悪意もありません。)

「もっとお腹から声を出せ!」
「もっと口角を上げろ!」

かなり熱心な指導でした。

たしか床に寝転んでお腹を手で押さえて歌う、
みたいな複式呼吸の練習もしていたと思います。

また以前に指導されていた別の学校のクラスが
合唱コンクールに出場した時のビデオも観ました。

それくらい熱心な指導だったので、
声が小さかったり、ましてや歌っていないような子供には、
そばに寄ってきて詰問が始まります。

「おい、なんで歌わないんだ?」

それは口が臭いからだよ、とは言えるはずもなく、
ただただ黙りこむしかありません。

しっかり声を出して歌うと、またとなりの子のため息が聞こえてくるだけです。

なんだか板挟みにあっているような気持ちでした。

 

悩んだ末、僕はもう本能で
「めちゃくちゃ一生懸命取り組んでいる生徒」のフリをしました。

完全に口パクで大きな口を開け、
ものすごい大きな声で歌っているフリをしたのです。

鼻で呼吸をしながら。

先生が「体を揺らしてリズムにのりながら歌いなさい。」
という指導をされました。

すると僕は前後左右に大きく体を揺らし、
リズムにノリノリなフリをしました。

となりと距離を保つために。

先生が「表情が大事だ。笑顔で歌いなさい。」という指導をされました。

すると僕は口元が引きつった微妙な笑顔を浮かべながら歌いました。

たまに先生が近くに寄ってきたときだけ、
嘘がバレないように押し殺して少し声を出しました。

いま考えると先生は気づいていたと思います。

すごい一生懸命に体を動かしてアリアリと感情的な表情をしているのに、
近くにいくとそれを裏切るように全く声が出ていないわけです。

自分が大人になってこんな子供がいたら
うっすら不気味さを感じるかもしれません。

ただ何かしらの事情があることを察してくれたのかもしれない・・いまはそう思います。

 

微妙な心理的駆け引きと優しさ、心の底に様々な感情を感じながらも
表面上は成立していたこの茶番劇は、小学校を卒業するまで続きました。

ともかく先生の指導には忠実に従っていました。

色々と思うことはあったと思いますが、
先生にはもう何も言われなくなりました。

そしてまた、となりの子にも何も反応されなくなりました。

嘘で塗り固めてこの窮地をしのぎました。

ちなみにこの合唱は卒業式で発表されて、
これを録画したテープがいまでも祖母の家に残っています。

少し大人になってから祖母がその映像を
嬉しそうに観ているのを横で見たとき、
なんかすごく胸が苦しくなったのを覚えています。

僕にとっては屈辱的で消し去りたい記録映像です。

 

ただ合唱のおかげで2つのことがわかりました。

・人と一定の距離をとれば臭いとは思われない
・鼻で息をすれば近距離でも臭いとは思われない

とりあえずこの2つを守れば普通に生活できそうだとわかりました。

 

ところが・・中学生になると、子供はより多感なお年頃になります。

消したい記憶はここからさらに色濃くなっていきました。

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